究極の終活:遺言と家族関係

文・野口洋美

相続問題で家族関係がギクシャクすることはめずらしくない。 

母の死後、複雑な相続を経験した私は、遺言書の作成こそ「究極の終活」だと学んだ。そこで私は、カナダと日本でそれぞれ、裁判所の検認を必要としない「公正遺言書」を作成し、どちらにも「カナダの財産はカナダの遺言に従い、日本の財産は日本の遺言に従って分割する」旨を明記した。

これで翻訳の手間や手続の不安もなく、迅速に遺産を分割することができる。

移住者の遺言書

国際結婚などでカナダに移住した日本人が親の遺産を相続し、その遺産を日本に残したまま亡くなったとしたら、移住者の子供たちは途方にくれるだろう。

言葉の問題だけではない。海外にある遺産の追跡ほど骨の折れるものはないのだ。

だが、財産目録が添付され、税理士や弁護士らの連絡先が明記された遺言書があったら、どんなに心強いだろう。相続人のストレスは大きく軽減されるはずだ。

移住者が受け取る日本の遺産

そもそも、移住者が日本の遺産を相続する場合、現金が一般的だ。遺産が不動産であれば売却して分割する。もし他の相続人が売却に反対なら、その不動産の時価の相続分に相当する額を代償金として受け取る。 

しかし、全ての遺産分割が、教科書通りに進むわけではない。私の場合、相続人の一人が不動産の売却も代償金も受け入れないため遺産分割ができず、全ての遺産が共有のままとなっている。

この共有状態の解消のため、日本の裁判所で調停が始まった。

根気よく交渉を試みたが、実らなかった…相続開始から4年が経つ。

とにかく面倒な不動産の共有

もし共有が解消できないまま私が亡くなったとすると、カナダ在住の私の子供たちは日本の不動産を共有のまま相続することになる。

日本の民法によると、共有者それぞれの法定相続人が相続を続けると、ねずみ算式に共有者が増えてゆく。配偶者、子、子がない場合は兄弟が相続し、また子や兄弟がすでに亡くなっていたならその相続権は、孫、姪や甥らに移行する。

 遺産分割協議には、法定相続人全員が参加しなければならないため、場合によっては、見ず知らずの法定相続人を見つけ出さなければならない。また、相続人の中に認知症状のある人がいた場合は、バードルはさらに高くなる。

 遺言は「家族関係の安定」以上の意味を持つ。

遺言という名の責任

 遺言書の作成は、親としての最後の責任である。

 日加両国での遺言書は、複雑な相続をそれ以上こじらせないための布石だ。私の死後はこれに従い、財産の処分や債務の履行が専門家らによって滞りなく行われるはずだ。

 遺言書の作成で大切なことは、法定相続人の誰にとっても「遺言」がサプライズにならないように留意することだ。遺産の範囲やその分け方が家族と共有できていたなら、相続開始後、家族関係に軋轢が生じることはないだろう。

 私の子供たちは、いつまでも仲の良い家族でいられるに違いない。

 遺言に託した私の最後の望みだ。

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