カミングアウトが必要なくなる日

文・三船純子

 20代半ばから30年以上過ごしたこの北米の地で沢山の学びの機会に恵まれた。年齢を重ねる上での気づきや学びとは別に、北米の生活で得た学びの機会も多かったと感じる。 アメリカで英語が第二言語の女性移民というマイノリティーという立ち位置になったことで、それまで見えていなかった日本社会のマイノリティーの存在を理解したいという気持ちが膨らんだ。学びのターニングポイントは時には衝撃的な開眼の機会であったり、自分の無知さと配慮の無さに自責の念に駆られる複雑な感情を伴ったりする。

学びの一つに、レズビアン、ゲイ、バイセクシャルと自認公認する性的少数派の大学のクラスメートとの出会いがあった。30代で学生となり心理学を専攻しながら第二専攻として女性学のクラスを取り始めた頃だった。今から30年前のアメリカのミシガン州の大学のクラスで、20歳前後の若者達が性的マイノリティー(少数派)として差別と偏見に直面し対応しながら生活している話を間近に聞いた。日本の生活で性的嗜好を自認し公言する人に出会ったことがなかったので、クラス内のディスカッションで自分のセクシャル・アイデンティティーをシェアしていた彼女彼等の言動が新鮮だった。性的多数派が当たり前に享受していることが許されず、法的にも守られていない人々が身近にいるということを知ったのだった。

その後の20年以上のトロントでの生活の中で、様々な性的少数派を自認する人との関わりや繋がりがあった。友人知人や同僚、近所の人、または仕事で関わる人達の中に性的マイノリティーである人々が少なからずいる。

トロントでは1981年に始まったプライド・パレードが今年は6月に再開される予定だ。ミシガンからトロントに移った翌年の1990年に、沿道からパレードを初めて観賞した。その当時参加していたエクササイズクラスの男性インストラクターが、クラスで見るより何倍も生き生きとした表情でパレードに参加しながら嬉しそうに沿道の私に手を振ってくれたのは印象深い思い出だ。

カナダでは1965年に同性愛行為が合法化され、2000年にはオンタリオ州で同性カップルが養子を迎える権利が合法化された。同性婚はオンタリオ州では2003年6月に、オランダ、スペイン、ベルギーに次いでカナダ全土では2005年に合法化された。2016年には同性婚カップルが自分の子供と養子縁組をしなくても親子として見なされることが合法化された。2021年12月にはカナダ議会が性的マイノリティーの性的指向を強制的に矯正治療する転換療法を違法とすることを可決した。

数ヶ月前に職場で Egale *という団体による「2SLGBTQI** Inclusion」の為のトレーニングがあり、性的マイノリティーのスタッフ及びサービス利用者への差別や偏見を無くす為の職場作りに雇用主と雇用者がなすべき諸事を学ぶ機会があった。職場で性的マイノリティーの雇用者がカミングアウトした場合に、カミングアウトされた人はそのことをカミングアウトした人の許可無しに多言しないことの大切さについての話もあった。 

日本では2015年に同級生にカミングアウトされた大学生男子生徒が当人の承諾無しに仲間グループにその事を話した結果、アウティングされた大学生が自死するという悲しい出来事があったのは記憶に新しい。

職場でのリサーチ結果に限られるが、日本では2割の性的マイノリティーしか職場でのカミングアウトをしていない。カナダでのリサーチでは、性的マイノリティーの従業員の6割は同僚に、半数は上司にカミングアウトをしており、そうしていない約半数の性的マイノリティーは、カミングアウトしないのは同僚が自分達の性的指向を既に認知しているからと回答している。

3年前に24歳でゲイとしてカミングアウトした義理の息子の承諾を得て、彼の経験をシェアさせていただくと、高校時代にはガールフレンドが何人かいたが、どの女性とも長続きしなかったのは、彼の中に迷いがあったからだそう。幼少期から自分が周りの友人達とはどこか違うのではないかという思いがずっとあったと言う。それが20代半ばにカナダを離れオーストラリアに1年以上滞在し様々な経験を重ねる中で、自分はゲイであるという確信が彼の中に生まれた。最初に親しい友人達に、そして親にカミングアウトし、幸いなことに、理解のある人々や家族に恵まれて、嫌な思いをしたことがほとんどないという彼。カミングアウト後にパートナーもでき、職場の同僚にもカミングアウトしているそうで、何かが吹っ切れたような彼はとても幸せそうに見える。

自分のアイデンティティーの一つである性的指向を公言することが容易でない社会だからこそ存在するカミングアウトというプロセス。誰もがありのままの自分を告白する必要もなく、社会が自然に受けいれる日がやってくることを心から願う。

*LGBTQ2A

**Egale

参考資料:

https://www.queerevents.ca/queer-history/canadian-history-timeline/

https://www.jibunbank.co.jp/column/article/00276/

https://lgbtqhealth.ca/resources/lgbtqfamiliesandparenting.php/

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