日本の学校の制服を考える
文・鈴木典子
今年2022年の4月7日は、日本の多くの高校で入学式が行われたが、その中で注目を集めたのがさいたま市の大宮北高等学校だ。新入生の制服の色やデザインがバラバラだったのだ。 この高校が今年度からユニクロの既製服を高校の制服と定めたためである(注1)。一式で2万円未満とかなり経済的な上にバラエティにも富み、自宅で洗濯もできて衛生的な、魅力的な試みだ。学校に寄せられた批判的なコメントは、既製服の採用そのものではなく、ユニクロの製品が人権問題で規制の対象になっているウイグル自治区で生産された綿花を使用しているなどの点についてだったようだ。
一方、岐阜県立岐阜北高校では、2021年から「制服について考える週間」や教員・有志生徒が制服の在り方について検討する委員会とワーキンググループで、一年以上かけて制服のあり方を見直してきた。今年4月に公開された「生徒心得」では、式典などの場合を除いて制服以外の服装を選択できることとした。この学校が注目されたのは、制服のあり方を生徒が中心となって自由化を試行したり、校則としての表現を検討したりした点である(注2)。
同じ岐阜県では、岐阜県立加納高校が2020年から私服通学を認めていたが、今年4月からは校則で正式に私服か制服かを各自で選択できることとなった(注3)。
全国各地で私服通学が認められるようになったのは、新型コロナウイルス感染予防の観点から、衛生的に洗濯でき、換気のために冷暖房が効かない学校で季節に応じた服装が望ましいとなったことが大きい(注4)。
また、トランスジェンダーや性同一性障害の生徒が、制服を着用することで不登校になったり、精神的苦痛を訴えるようになったりするケースが増えたことから、2019年頃から制服の「ジェンダーレス化」が進んだ。主な対応として、スラックスを両性とも着用してよいことにする学校が増えており、制服の選択肢を増やすもととなっている(注5)。

こうした動きから、改めてなぜ日本では学校で制服を着るのか、ということも調べてみた(注6)。明治10年代に学習院での「詰襟」の男子制服や東京師範学校女子部での洋装の制服を皮切りに大学、高校での制服が始まり、徐々に下の学年に下がっていったようだ。
制服が、富裕層が通う学校や名門学校への帰属意識や誇り・ステータスの象徴となったこと、ブレザーの採用やブランド化など「おしゃれ」「かわいい」服装として人気が出たことなどに加え、「私服では家の経済状態がわかってしまいかわいそう」などの気遣いが優先されることもあった。
学校側としては、制服により生徒の管理が容易となる側面も大きい(注8)。団体として認識・管理しやすい、服装・見た目による個人差が無く「平等な」環境が作れる(私服だと華美な服や競争につながる」、などである。
制服導入当時は和服よりも化繊の制服は安価であり、通学のための私服を購入するより経済的負担が少ないというのが導入の理由の一つである。しかし、オーダーメイドまたはセミオーダーメイドであることから、現在は私立学校ではセットで10万円、公立校でも3~5万円はする。ブランド化や頻繁なデザイン変更をして他校との差別化を図る学校も多い。東京銀座の公立泰明小学校がアルマーニの制服を導入した際は大きな話題となった(注9)。その上、洗濯のための替えも必要だし、中高生は成長期であり、在学中に買い替える必要が出ることもある(注10)。中古品をバザーで販売したり、親戚・知人から譲ってもらうことも多いようだが、買い替えできず体に合わない制服を着続けなければならない場合もあり、一概に経済的であるとか、経済格差が表れないとは言えないと思う。
学校では、子供たちを「平等」という名目のもとでの「管理」が過剰になって、制服着用に伴う靴下などの小物の色や形状、スカートの丈など、校則で細かいことを厳しく規制し、教員がそれらの規制から外れる生徒を指導するという状態が多くの学校で常態化している。実際に制服を着ている生徒たちが制服のことをどう思っているのかの調査結果も興味深い(注11)。「毎日の服装に悩まなくていい」(58.3%)、「学生らしく見える」(56.0%)という回答が半数を上回ったのだ。子供たちは管理されることに慣れてしまい、自ら季節や場面、体調や衛生状態など、TPOに応じて服装(や行動)を考えるという経験をせずに大人になり、社会人になる時でさえ「リクルートスーツ」以外は着ないようになってしまっているのではないだろうか。
もちろん、制服だけが子供たちの自主性を損なう理由ではないが、ここ数年、子供たちと教員が一緒になって校則や制服のあり方を見直そうという動きが起こっていることは、本来の子供たちの力を信頼し、本当の意味で子供たちを育てる、喜ばしい動きだと思っている。
世界で「かわいい」と評価の高い日本の「制服文化」。その利点を生かしながら子供たちの自主性や多様性を伸ばしていけるようになってほしい。
カナダの高校で、露出度の高いかわいらしい服を着てきた女子生徒に、年配の女性教師が「とってもかわいくて似合っているけど、学校に着てきても役に立たないわね」と声をかけていたのを思い出す。
注1:NHK首都圏ナビ 「大宮北高校「ユニクロ制服」導入にネット騒然 その後どうなった?」2022年3月8日
https://www.nhk.or.jp/shutoken/wr/20220308b.html
ユニクロ「学校制服導入事例さいたま市立大宮北高等学校」
https://www.uniqlo.com/jp/ja/contents/feature/schooluniform-ohmiyakita/
「全国初「ユニクロ」制服採用 「制服を自由に選びたい」生徒からの声で」4/8(金) 1:04配信 日テレNEWS
https://news.yahoo.co.jp/articles/a08d1baa4c97b9e8ef84989e856217b1627214e2
注2:岐阜県立岐阜北高校ホームページ 「北高の制服のあり方について議論しています!」
2021年8月3日
注3:「「私服通学も可能に」 岐阜の高校が100年続いた伝統を廃止し“自由化”に 「セーラー服を制服に」 実は愛知県にルーツが!?」中京テレビNEWS 3/31(木) 20:09配信
https://news.yahoo.co.jp/articles/4b087fc5721ead4ac7536ff26d955f045791e6c5?page=1
注4:「制服の自由化 大人が消極的 コロナ禍の校則見直し」内田良|名古屋大学大学院教育発達科学研究科・准教授 YahooNews 2021/9/13(月) 6:24
https://news.yahoo.co.jp/byline/ryouchida/20210913-00257980
注5:「元東京都衛生局職員で、医事ジャーナリストの志村岳氏がこう言う。
「新型コロナのウイルスは紫外線に弱いという報告もあり、着ている服は毎日洗濯して日干しした方がいいでしょう。各校の判断次第ですが、制服はジャブジャブ洗うことはできないため、私服がベターかもしれません。学校生活では上履きの裏の除菌なども必要になるでしょう」」(日刊ゲンダイ「コロナ対策で中高は制服が不要に? 衛生面では私服がベターとの指摘も」より抜粋)
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/274101/2 公開日:2020/06/04
「3.集団感染のリスクへの対応
⑦冬季における換気の留意点
イ室温低下による健康被害の防止
換気により室温を保つことが困難な場面が生じることから、室温低下による健康被害が生じないよう、児童生徒等に暖かい服装を心がけるよう指導し、学校内での保温・防寒目的の衣服の着用について柔軟に対応しましょう。」(「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル~「学校の新しい生活様式」~(2020.12.3 Ver.5) から抜粋)
注6:「なぜ学校には「制服」があるのか? 制服の歴史を振り返る」ジュニアエラ 2018/05/08 11:30 https://dot.asahi.com/aera/2018050100060.html?page=1
「学生服の歴史」カンコー博物館(菅公学生服株式会社)
https://kanko-gakuseifuku.co.jp/museum/history_uniform
注7:菅公学生服株式会社 調査リーフレット 「【Vol.174】日本の制服文化」
注8:同【Vol.195】学校が考える「学校制服の必要性」
https://kanko-gakuseifuku.co.jp/media/homeroom/vol195
注9:「銀座の公立小、制服にアルマーニ 一式揃えて9万円」日経新聞2018年2月8日
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO26693700Y8A200C1000000/
注10:制服リサイクルAOI STORE「小学校・中学校・高校の制服にかかる費用・平均的な値段はどれくらい?」
注11:菅公学生服株式会社 調査リーフレット「【Vol.190】高校生が考える「学校制服の必要性」」