みんなの接客英語
文・広瀬直子
今年の4月19日、『みんなの接客英語』(アルク)という語学書の改訂版を出版した。日本で接客業に従事する人が海外からの訪問客に対応するときの英語表現集で、できるだけ簡潔な英語を使っており、英語に苦手意識を持っている日本の読者にも親しんでもらえるように、カタカナのルビをつけるという本来不可能なこともやっている。[1]
外国からの訪問客が日本に戻り始めた絶妙のタイミングでの出版であり、大変ありがたいことに2ヶ月以内に二刷が出るほど好調な売れ行きである。
この本の元となる原稿が最初に出版された2015年、海外からの訪日者数は2000万近くに達した。その後も最多を更新し続け2019年には3200万人近くにまで伸びた。そして2020年が来てしまい、世界は伝染病に見舞われ、人やモノの流れが劇的に減少した。
コロナ禍を経験した私たちは、対面で人と交流することの価値を痛感した。お店の人と対面で簡単な言葉を交わすだけでも心の健康を維持するのに大切なのだということがわかった。
そして、コロナ禍がようやく収束を迎えたと思われる2023年9月現在、筆者が住んでいる京都の町を2、3分も歩けば、海外からの訪問客を数多く見かけるようになった。円安も追い風となっているのであろう、訪日者が再び年間3000万人を超える勢いだ。
旅行者にとって、旅先での接客業の人との会話は心に残るものだ。筆者は、ありがたいことにこれまでの35年間で、30カ国以上、13の言語圏を旅行し、接客業の人との楽しい思い出ができた。カナダのケベックシティで滞在したホテルで、コンシェルジェの女性が少しフランス語なまりの英語で紹介してくれたフランス料理店がとても美味しかったこと。メキシコのリビエラ・マヤへの旅行では、艶のある日焼けした肌のハンサムなお兄さんが、かなりスペイン語なまりの、でも通じる英語でカクテルを持ってきてくれたこと。ベトナムのハノイで船上のディナーを楽しんだときには、カタコトの英語だけれども、美味しい魚料理でもてなしてくれたスタッフの飾らない笑顔が素敵だった。
一方で、残念なことに「観光ずれ」しているなと感じた旅行先も少数ながらあり、日本への訪問客にはこんな思いをしてほしくないと感じたこともある。読者の皆さんが訪日客を暖かく歓迎し、素晴らしい思い出づくりを手伝うことに本書が役に立てれば、と思っている。
[1] 英語をカタカナ読みして通じないのは、音節の数が異なってしまうことが大きな原因のひとつなので、日本語の小さい「っ」音を利用したり、発音し切らない子音を()に入れるなどの工夫をした。
(例) Is there anything you cannot eat? →イ(ズ)デア エネスィン ユーキャノッ イーッ?