サブリース契約と賃料減額請求
文・野口洋美
母が経営していたアパートを相続した。アパート経営といってもサブリース契約であるため、年の半分をカナダで暮らす私にも十分に大家が務まるはずだった。だが、サブリース契約の賃借人としてL社から賃料減額請求調停が申し立てられたため、少々忙しくなった。
違法建築問題が世間を騒がせてから5年、倒産すら囁かれたツッコミどころ満載のこの会社は、再建資金調達に成功し、コロナを乗り切り、その経営はまあまあ順調なようだ。
そのL社が、経営苦とコロナ渦の狭間で「自社が管理するアパートは近隣の他のアパートに比べ家賃が高いこと」を理由に、契約時に約束された賃料の減額を持ちかけ始めたのが2021年。私が相続したアパートもその例外ではなかったが、違法建築の是正が完了するまで減額には応じないと突っぱねていたところ、2023年3月、内容証明の送付に続いて調停が申し立てられた。
多くの人は、内容証明郵便を受け取った時点で不安に苛まれる。さらに簡易裁判所から申立書の送達があった時には、まるで自分が犯罪者にでもなったかのように震え上がる。
そもそも内容証明とは、その文書の存在を証明するもので、その内容が真実であることや法的な後ろ盾があることを証明するものではない。それでも上場企業の名前で受け取る内容証明に脅威を怯えても不思議はない。
さらに、裁判所の封筒で申立書面が送達されたら、どれぼど怖気付くかは想像に難くない。そもそも裁判所ではなく簡易裁判所なのだが、両者の違いに気がつかない人も少なくない。
固定観念を当てはめたくはないが、L社のターゲットとなる大家の多くは年配の女性だ。少なくとも母も私もその一人だ。そもそも年配の女性が与し易い考えることこそ固定観念だ。
早速、最高裁の判例の収集と借地借家法32条第1項を紐解き、所有するアパートの状況に照らし合わせて検証したところ、この賃料減額請求は理にかなわないことが判明した。
子育てを終えてから通った大学院で叩き込まれたリサーチスキルと、法律事務所勤務で培った法の読解力が、思いがけず役立った。
L社の申し立ては屁理屈に過ぎず、大家を見下しているとしか思えない。「裁判になれば上場企業であるL社の方が圧倒的に有利だ」と脅す手口も稚拙だ。
私の主張の詳細や調停の行方などについては、別の機会に譲りたい。現在私は次週に迫った調停期日の準備書面の作成に追われている。
