2023年の豊作年 – トロントの動物たちとどんぐり
文・ケートリン・グリフィス
今朝フサフサの健康そうなコヨーテと目が合い、立ち往生してしまった。トロントにいると市内でも思いがけない野生動物と遭遇することがしばしばある。先週は鹿を見かけたし、早朝に狐と鉢合わせしたことも何度かあった。うさぎもいれば、スカンクもいる(かわいいけどコヨーテと同じ位出くわしたくない動物だ)。 またここ数年ビーバー(カナダの国獣)もトロントへ戻り、所々でダムづくりに励んでいる。彼らの自然ダムがもたらす川の汚染物質の浄化などの環境効果を楽しみにしている。(注1)
アライグマについては以前記事にも書いたが(注2)、トロントのラクーン(アライグマ)は相変わらず賢くなっていくばかりで「トロントはラクーンたちの街だ」と先月の新聞記事のタイトルにもなっていた。(注3) しかしアライグマ以上に毎日の生活の中で見かける野生動物はリスである。

秋のリスは特に忙しくピョンピョン駆け回っている。冬支度のため拾ったどんぐり等を食べたり、よいしょよいしょと穴を掘っては埋め、そして跡形が残らないよう丁寧に穴を隠す姿をどの公園や庭でも見かけることができる。リスが隠すのでトロントでどんぐりを見かけるのは実は稀だったりする。しかし、今年は例外で、異常な程のどんぐりが公園を埋め尽くしている。何事かと心配したくらいだが、リスはいつも通りせっせとどんぐりを隠している。まさに大忙しのリスでさえ対応できないくらいのどんぐりが地面を覆いつくしているのである。
大量のこのどんぐりについて調べてみた。
豊作年、英語ではMast Yearというらしい。このマストの意味がイマイチ分からなかったのだが、元々中世ヨーロッパでブナ科樹木の堅果は「マスト」と呼ばれていたそうだ。そして豚の食べ物とされていた。マスト・イヤーとはどんぐりや堅果が豊作した年を言い、数年ごとに起こるらしい(しかし、このような大量のどんぐりを見た記憶はない。ただ単に今年まで気が付かなかっただけなのだろうか?)しかも未だ何故数年ごとに豊作年が起こるのかわかっていないようだ。
調べているうちにブナ科樹木の種類の豊富さに驚いた(900種以上)。その中のどんぐりの「親」オークも600種類あるという(Wikipedia参照)。リスだけでなく、大昔から人間もどんぐりを食としていた。日本では縄文や弥生時代の遺跡からブナ科樹木の堅果が多数出土し、食料として収集されていたことが分かっているだけでなく、農耕が主流になったのちも、飢饉の際などに代用食として利用されていた。(注4) どんぐりにも色々あり、欧米のはとくにアク(タンニン)が強いようであったが、それを除くための方法を先住民たちは多様に工夫し、どんぐりが彼らの食生活の大切な一部となっていた。
現在トロントのリスはどんぐりを一人占めしているように見えるが、実はこのどんぐり、ネズミを含め、うさぎ、アライグマ、それに鹿やコヨーテも食べる、まさに富の実である。
今朝、目が合ったコヨーテはオークが並ぶ公園にいた。どんぐりを食べていたのか、どんぐりを求めてやってくるだろうネズミ等を待っていたのか、取り合えず私に関心を示さなかったのが何よりであった。
注1:https://parks.canada.ca/pn-np/mb/riding/nature/animals/mammals/castors-beavers
注3:
注4:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsk/35/0/35_KJ00003199713/_pdf

