住むところと働くところ
文・斎藤文栄
最近、朝日新聞でも特集されていたが、海外に移住する日本人が増えているという。記事によれば、22年10月時点の海外永住者が過去最高の55万人だったそうだ。日本国内の閉塞感、働き方や子育て等が理由に挙げられている。移住先として人気が高いのは、どうやらマレーシアとカナダのようで、この二つの国に移住する人々が特集されていた。(*)
まず「移住」という選択肢が日本人の間に増えていることに驚く。ひととき日本人が内向的になり、海外留学をする人が減っていることが話題になっていたと思ったが、どうやら時代は変わったらしい。
確かに最近、私がカナダの永住権を持っているパーマネント・レジデントだというと、カナダに移住したいので話を聞かせて欲しいと言われることが多くなった。ただし、それは私が現在、アフリカで暮らしていて、海外生活が長い人たちに囲まれているからという理由がある。こちらにある程度長い期間滞在している日本人は、現地の人と結婚して移住してきた人を除けば、たいてい商社か建設会社、大使館、国際協力分野で働く人たちとその家族である。中には日本を出て25年、子育ては全て海外という強者ご夫婦もいる。すでに海外で働いていて、家庭の中では日本語、学校は英語、あるいは英仏のバイリンガルで育てている日本人にとって、カナダへの移住は現実的、かつ魅力的な選択肢だ。

カナダの移民プロセスについて私は詳しくないので、そこは割愛する。今回のポイントは、実際に永住権がとれた後の話だからだ。
永住権がとれた後、カナダ国内で仕事をするならば問題ないが、私がよく話を聞いているような人たちが、今までと同じように国際協力の仕事をしたい、アフリカで開発にかかわりたいというような、カナダ国外で仕事をしたいという場合、永住権の維持が問題となる。
パーマネント・レジデントの場合、5年ごとの更新の際に居住要件を満たす必要があるからだ。具体的には、カナダ国内に過去5年間のうち2年以上住んでいること、あるいはカナダ国外にいる場合は、5年間のうち2年以上カナダ国籍を持つ配偶者と一緒にいることが、更新が認められる要件となる。
私はパーマネント・レジデントになって以降、カナダを離れ、数年ごとにフラフラとアジア、日本、アフリカを渡り歩く生活をしている。そんなライフスタイルでカナダ永住権を維持できるのは、カナダ人の配偶者と移動しているからである。
カナダ国籍を持つ配偶者がいない、あるいはいても配偶者はカナダ、自身はカナダを離れて海外で働きつつ永住権を維持するにはどうするか。選択肢としては、(1)カナダの団体に雇用してもらいそこから海外派遣をしてもらうか、(2)5年のうち2年をカナダで過ごし居住要件を満たすようにすることだろうか。あるいは永住者になってから3年カナダ国内で過ごし、カナダ市民権をとってから(つまり日本国籍を放棄して)海外に出るという究極の手段もある。
国際協力でキャリアを築いてきた人たちは、適応力という点ではカナダでも十分やっていけるだろうが、他の国に移住しつつ、自分のキャリアを続けるには、様々な要件をクリアしなければならない。キャリアを諦め、他の仕事を始めるという選択を考える必要も出てくるかもしれない。それはどの移民も抱える悩みでもある。
住むところと働くところをどう調和させるか、なかなか難しい問題である。
参考
朝日新聞連載 わたしが日本を出た理由 (全21回)