移住と食と健康
文・空野優子
“You are what you eat.”
何年も前、当時の同僚と料理の話題で盛り上がっていたときに、彼女が口にした言葉だ。英語のことわざで、直訳すると「あなたはあなたの食べるものそのものである」となるが、要は「食が体を作る」という意味だ。
最近、このことわざがそのままタイトルになったドキュメンタリー”You Are What You Eat”をNetflixで見ることがあった。4組の成人の双子が8週間の間実験に参加し、一人が菜食、もう一人が肉食中心の食生活を送ることでの体の変化を図るというものだ。遺伝子が同じ一卵性双生児が対象なので、食べ物がどう健康に影響するかがよく観察できるとのことだ。また、実験経過だけでなく、アメリカの食肉産業の実態(これを見るとなぜ北米では牛肉の値段が安いのか納得するが、お肉を食べるのが少し怖くなる)や、環境への影響などにも触れていて、なかなか興味深い。
海外に移住すると食生活が大きく変わる。
私の海外生活一年目は留学先アメリカ・イリノイ州のゲールズバーグという田舎町の大学寮で過ごした。この時の食生活を思い返すと、食堂の単調で油の多い食事のせいか、または食べ放題のセルフサービス(アイスクリームバーもついていた!)方式のせいか、多分両方が理由なのだろうが、8ヶ月で10キロ近く体重が増えたという苦い思い出がある。日本のお米に近いカリフォルニア米を買うのに車で1時間、という田舎だったため、当然日本食に触れることもほとんどなかった。2年目から特別に許可をもらって自炊を始めてからは、体重は落ち着いた。
今住んでいるカナダのトロントは、各国からの移民が集まっていて、アジア系の人も多く、一般的な日本食の食材はたいてい手に入る。お米や味噌などの調味料だけでなく、蓮根やごぼう、納豆、こんにゃくなど和食ならではの食材も近くのお店で買えるのはとてもありがたい。
それでも私の食生活はいつの間にか北米化して、朝食は主にシリアル、オートミール、パンやホットケーキだし、たまにご飯を炊いてもせいぜいお味噌汁を作る程度だ。北米化したといっても、こちらには日本では馴染みのない野菜がたくさん売っているのだが、新しい野菜を試すこともあまりなく、こちらで主流の健康食であるキノアやらケールやらを買うこともあまりない。
夜は和食の時も多いが、子どもたちの好きな食べものは焼きそばとか親子丼などで、野菜の副菜などは作る余裕がなく、一汁三菜などとはほど遠い。うちの場合は夫のルーツである西アフリカの料理も作るのだが、一食一品が基本で、野菜はあまり多く使われない。私の母が作ってくれた食事と比べると、栄養が偏っているとは言わなくとも、使う野菜の種類も量も少ないことが多い。
もちろん移住して食生活が変わるのは日本人だけではない。胸を期待に膨らませてカナダにやってくる移民の多くが、移住後に健康状態が悪化するという研究結果がある。移住すると、食生活だけでなく、住居環境、経済状況、または家族や周りの環境ががらっと変わるので食べもののせいだけにはできないが、食生活が大きく変わることによる影響も無視できないのではないだろうか。
ちなみに、先のドキュメンタリーの研究に話を戻すと、双子のペアにもよるが、肉食生活に比べて、菜食の方が、体脂肪が減ったり、体内の血流が良くなったりという結果が出たそうだ。健康のためには野菜中心の生活が好ましいのはよく知られているので、驚く結果ではない。ただ菜食の場合、きちんと必要なカロリーとタンパク質を摂取することが大切だということは気に留めたいと思った。
食生活を見直す、というのは新年の抱負としてはありきたりだが、子どものためにも、若くない私の体のためにも、2024年、健康第一を心がけていきたい。
