「ルッキズム」「顔負け」〜 女性たちはそれでも前に進む
文・野口洋美
「うっせいわ〜」と思わず令和の流行り歌をまねた。自由民主党、麻生太郎副総裁(83)の上川陽子外務大臣(70)に関するコメントに対してだ。
麻生太郎―内閣総理大臣経験者にして現自民党副総裁。党の総裁人事への発言力から「キングメーカー」と呼ばれる政界の重鎮。
その麻生氏が、自民党の派閥解散問題で、麻生派代表(志公会会長)として注目されていた2024年1月28日、地元福岡での講演会での発言が、またも話題になった。
麻生氏としては、「自民党内に有能な政治家が育っていることを強調する」ため、「上川外相の手腕を誉めた」つもりらしいが、「麻生節」として知られる氏の「軽口」には毎回耳を疑う。このタイミングでこのような発言をするこの御仁の鈍感力に、あらためてあきれはてる。
「今の外務大臣、上村陽子、『このおばさんやるねえ』と思った…そんなに美しい方とは言わんけれども、きちんと堂々と話をして、英語できちんと話をし、外交官の手を借りずに自分でどんどん会うべき人に予約を取っちゃう」
上川外相を「カミムラ」と呼び間違えたことは「ご高齢による記憶違い」と百歩譲りつつ、マスコミはこの発言を「女性を外見で判断するルッキズム」だと避難した。だがそれ以前に、麻生氏の発言は女性に対する偏見のオンパレードだ。
上川陽子―東京大学卒業。米ハーバード大学院修了。東大で国際関係論を学び、ハーバード大学院で政治行政学を専攻、修了と同時に政策コンサルタント会社を設立した国際政治のプロ。政治家としても、衆議院議員当選回数7回。安倍内閣から菅内閣にかけて長く法務大臣を経験。
そんなプロ中のプロであるベテラン大臣に対して、「堂々と話ができること」や「自ら英語でアポを取ること」を「おばさんにしては大したものだ」と揶揄する発言が、失礼極まりないことはさておき、その前提にある「女性は男性に比べて能力が劣っている」という考えに対し、私は「うっせいわ〜」と叫んだわけだ。
さて、上川外相について調べる中で見つけた2023年11月14日の夕刊フジのコラムについても言及しておきたい。こちらも上川氏の有能さを称賛する内容であるにも関わらず、根底にあるのはやはり女性蔑視だ。
まず、コラムのタイトル「米国務長官も“顔負け”上川陽子氏を含む女性外相が活躍したG7会合」に違和感を持った。コラムの主旨は、11月7日、8日に開催されたG7外相会合に参加した8人の外相の内4人が女性であったことで、上川外相をはじめとする女性政治家の存在感を讃えたものである。
だが、上川氏の主導は、議長国外相として当然のことであり、むしろリーダーシップが発揮できなければ非難の対象となるべきところだ。しかしコラムは、「イスラエル戦闘での人質解放と停戦」という議題において、上川外相とフランスのコロンナ外相が終始議論をリードし「ブリンケン米国務長官も顔負けした」と結んでいる。
そもそも「顔負け」とは、「大人顔負け」「プロ顔負け」などのように、本来なら劣っていると思われる者が予想外に発揮した能力に、本来優れているはずの者が圧倒されることを指す。このコラムは、女性は男性より劣っていることを前提に「男性顔負けの存在感を示した女性たちに驚いた」と言っているにすぎない。
「うっせいわ〜」
麻生氏の珍しくもない失言の揚げ足を取り「ルッキズム」と騒ぐマスコミも、女性の有能さを「男性顔負け」と論じることも、お門違いもはなはだしい。上川氏を評価したければ、「その知識と経験に培われた能力を遺憾無く発揮している」となぜ言えない。
当の上川氏は、「昔はもっと酷いことを言われた」と失笑するのみ。
「うっせいわ〜」とつぶやきながら、女性たちは今日も前に進む。

