アメリカのコメディアンが上品になってきた?

文・広瀬直子

  イギリス人のコメディアンのジェームス・コーデンさんと
BTSのメンバーたちが絡んでいる一場面
(『Late Night Talk Show with James Corden』(CBS)より)

 北米で深夜に放送されるトークショーには、旬のスターが呼ばれてインタビューを受けることが多い。もうすぐアルバムが出るとか、出演映画がリリースされるとかいうスターのPRの役割を持つ。私はこういうトークショーがけっこう好きで、視聴歴は30年以上になる。

 長年住んでいたカナダから日本に戻った現在も、英語圏の話題にキャッチアップするためにYouTubeで北米のトークショーの視聴を続けている。最近ではK-POPのスーパースターであるBTSのメンバーがインタビューを受けているエピソードをいくつか観た。

 かつてグループの7人全員で出演していた時のトークショーのホストは芸人のジェームス・コーデンさんで、メンバーと愉快なやりとりを繰り広げていた。彼はイギリス人で、アメリカで放送されていた 『Late Night Talk Show with James Corden』は2023年で終了した。

 一方、BTSのメンバーは韓国の懲役義務を果たすため、2022年末から徐々に軍隊に入り始めた。そして残ったメンバーがソロで活動を始めたのである。ソロアルバムを出したメンバーをアメリカに呼んでインタビューをしたのが、ジミー・ファロンさんの『The Tonight Show Starring Jimmy Fallon』だ。

 コーデンさんとファロンさんの番組がおもしろかったのと、BTSメンバーが第二言語である英語でどんな風にコミュニケーションを取るかに興味があったので複数回観たのだが、私はひとつ嬉しい発見をした。

 若い人は知らない名前かもしれないが、80〜90年代の深夜のトークショーといえば、デイヴィッド・レターマンさんという芸人が第一人者と認識されていた。私は全般的に彼のトークをおもしろいと思っていたが、一度大変不愉快な思いをしたことがあった。

 90年代だったと思う(ネットでは調べがつかない)。彼が、エミー賞も受賞した 『Late Show with David Letterman』にジャッキー・チェンさんを迎えた時のことである。チェンさんは香港生まれの俳優で、広東語がネイティブであり、英語には不自由があった。それでも、完璧ではないが十分上手な英語でインタビューに応じていたのである。それをレターマンさんがからかうように “He’s trying! He’s trying!(彼もがんばってるんだよ!)” と言って、聴衆は笑ったのだ。

 当時、英語を母語をしないけれどカナダの英語圏に住んでいた私にとって、レターマンさんの発言は大変不愉快だった。英語のネイティブスピーカーではない人が十分な上手さで話しているのに、それをからかっているように聞こえたからだ。レターマンさんには、第二言語を学ぶ人の苦労や知性がわからない英語ネイティブスピーカーに時々ある横柄さがあった。自分は英語しか話せないくせにー。チェンさんは笑ってスルーしていたが、Do you speak Chinese as well as I speak English then? (ならあなたは私の英語と同じだけの中国語が話せるの?)ぐらいの反撃をして欲しかった。

 最近のコーデンさんやファロンさんの番組にBTSが出演したとき、ホストには、BTSのメンバーが必ずしも完璧な英語を話さないことに対する横柄さは全く見られなかった。ちなみに、あきらかに通訳が付いていたが、ほとんどの場合通訳が話す部分はカットされ、ホストが英語で質問すると、メンバーがそれに流暢な英語で答えているように見えるように編集されていた。

大谷翔平さんと通訳

 通訳といえば、ドジャーズの大谷翔平さんは英会話に問題はないものの、細かいニュアンスを伝えたいがために通訳をつけているという。それは賢明な判断だ。あきらかに英語圏と日本と両方で長年暮らし、言語だけでなく両方の文化習慣を理解し、通訳・翻訳、異文化コミュニケーションのトレーニングを受けている味方をつけることは、メディアを通じてメッセージを発信する有名人にとっては、大きなアドバンテージになるからだ。

 私自身もカナダで通訳の仕事をしていたとき、英語がとても堪能である日本人のビジネスパーソンらの交渉についたことが複数回ある。1対1と1対2であれば、ふたりいる方が相手に対する心理面でも有利だし、ひとつの脳ではなくふたつの脳を使っているので、うまくいけば思考が広がる。同じ言語でもそうであるのに、第二言語で交渉するとなればなおさら自身の味方である通訳者をつけていることは心強い。通訳がされている間に考える時間も増える。

 ちなみに大谷さんの通訳者さんも有名人で、大谷さんのお給料から歩合制で支払ってもらっているので、とてもお金持ちなのだだとか。同業者として、血が出るほど親指を噛みたくなるぐらいうらやましい。