逆移住・カナダを去る人々

文・三船純子

日本からの移住先としてカナダの人気が近年高じていることを斎藤文栄さんが執筆されていた(記事リンク)。より良い生活を求めてカナダに移住する人達もいる中、カナダ移住後にカナダを離れる移民数の増加が問題視されていることに目を向けてみたい。

この6、7年の間に日本に移った元日本人移住者の知り合いが少なからずいる。日本の家族の事情やカナダでの退職を期に、またはキャリアやビジネスの関係でなど日本に戻る理由は様々である。同じ移住者としてカナダで暮らしていくとばかり思っていた移住者の同志が日本に戻っていくのを見送るのはちょっと寂しいものである。

カナダに移民としてやって来た人々(短期間滞在者を除く、永住権所有者と市民権収得者)がカナダを去る現象である「逆移住(Reverse Immigration)」が起きている理由を探ってみた所、それはカナダに移住後の20年内にカナダの社会でどのような生活を送れるかが関係しているらしい。2021年に85,927人だったカナダ出国者数が2022年に93,818人となり、2023年の年末にこの逆移住がニュースになっていた際には2023年の数字が更に増加することが予想されていた。(2024年3月時点でまだ最終統計数が出ていない。)

カナダ統計局の調査によると、1982年から2017年までにカナダに入国した移民の約15%が、入国後20年以内にカナダを離れていることが明らかになった。特に入国後3年から7年の間にカナダを離れ自国や他の国に移住する傾向があるとされている。この3年から7年という期間は、移民が仕事や住む場所を見つけカナダでの生活に適応しようとする時期でもある為、カナダでの生活上で何等かの問題があったと推測されている。カナダ国内の都市圏で高調し続ける住宅コストや物価、そして自分の学歴や経歴に見合った収入を得られる仕事が得られなかったなど、母国より良い生活を求めた一部の移民にとって、越えがたいハードルとなっているのである。

カナダ国内で世帯収入の平均約60%が住居費として必要とされているが、それはバンクーバーでは約98%、トロントでは約80%に達すると言われている。収入の殆どを住居費に取られれば、食料やその他の生活費に充てるお金は必然的に無くなる。フードバンク利用者がこの3、4年で爆発的に増加し、利用者の中には仕事を持つ新移民の割合も少なくない。自分の収入に見合った賃貸の住居探しは年々難易度を加速させ、1DKの公団住宅への入居までの待ち時間は、トロント市でもミササガ市でも10年から15年である。

カナダを去る移民の特徴として、高学歴の移民、特にエコノミック・カテゴリーで入国した移民や元留学生、家族の居ない独身者が挙げられている。これらの人々は国を超えた移動をしやすい条件を持っているかららしい。逆移住の話題をカバーしているニュースサイトやYouTuberのビデオを調べてみたが、満足できる住宅や労働条件が得られなかったこと、カナダよりも母国の方がより良い生活水準が整った生活が送れることがカナダを去る大きな理由として挙げられている。

日本への逆移住者数の情報は探せなかったが、台湾、アメリカ、フランス、香港、レバノン生まれの移民は母国に逆移住する傾向が強く、またエコノミック・カテゴリーの中でも投資家と起業家のカテゴリーで入国した移民は逆移住する割合が高くなっている。これらの国々は経済的にも政治的にも安定しているため、逆移住しやすい条件が整っていることが大きいらしい。

カナダの移民局は2024年は48万5千人という過去最大の新規移民の受け入れ計画を公表している。その内訳は、エコノミッククラス(職歴、学歴、英語力の審査あり、上記の投資家と起業家移民も含まれる)が58%、ファミリークラス(カナダ人やカナダ移民の家族として申請)が23.5%、そして人道的な理由による難民枠が18%となっている。

カナダに移住する機会を増やしても、移民がカナダを去ってしまうのは如何なものか。移民の国である事を豪語し誇りにしてきたカナダは、昔のように誰もが住み続けたい国ではなくなってきているのだろうか。既存の受け入れ態勢が移民にとって魅力的で住みやすいかどうかの見直しや移住後のサポートの強化や改善は、これからカナダの大きな課題となっていくのかもしれない。

シニア世代には母国である日本とカナダを毎年行き来しながら二か国で暮らすというスタイルを実践している方もいる。母国での住居の確保と長期で滞在できるビザや国籍の有無などの条件が揃えば、二国を行き来できる間はそのような選択も可能になる。

私自身、カナダに移住して24年が経った。カナダ移住前に12年住んでいたアメリカも含めると、移民として36年、人生の半分以上を北米で過ごしたことになる。今のところはカナダでこのまま老後を過ごすのも悪くないよなぁと漠然と考えているが、事情が変わってこの気持ちが揺らぐ時が来たりするのだろうか。

参考資料:

https://www150.statcan.gc.ca/n1/pub/91f0015m/91f0015m2024002-eng.htm

https://www150.statcan.gc.ca/n1/daily-quotidien/240202/dq240202a-eng.htm

https://www.reuters.com/world/americas/canadas-surging-cost-living-fuels-reverse-immigration-2023-12-09/#:~:text=Immigrants%20blame%20the%20sky%2Drocketing,said%20in%20a%20September%20report

https://www.canada.ca/en/immigration-refugees-citizenship/news/notices/supplementary-immigration-levels-2024-2026.html

https://toronto.ctvnews.ca/toronto-mayor-trades-words-with-federal-minister-over-shelter-space-for-refugees-1.6657798

https://www.dailybread.ca/research-and-advocacy/research/whos-hungry-report/?gad_source=1&gclid=Cj0KCQiArrCvBhCNARIsAOkAGcUYx95mS4lbW5fUAW80d93hClYXTEp5ocbDMjP31uTHMz7K-aPVxooaAnaxEALw_wcB