女性アスリートと生理のこと

文・鈴木典子 

4月、5月のG8の記事に続き、私が日頃から関心を持っているアスリートの場合の生理について考えてみた。

本番中に生理が始まった選手としては、古い話になるが、1985年の第7回東京国際マラソンで当時の東ドイツのビルギット・ワインホルト選手が試合中に生理が始まったにもかかわらず2位でゴールした話が有名だ(注1)。レース中継なのか、ニュースなのか忘れたが、ゴールの映像を見て、あれ、と思ったような気がする。

余談だが、私自身の生理が始まった年代は、ちょうど「タンパックスタンポン」の販売が始まった頃だったようだ(注2)。友達とプールに遊びに行くときなどに、本当に大丈夫かな~と思いながら使っていたのを思い出す。

今回改めてネットで調べてみると、元オリンピック競泳選手である伊藤華英(はなえ)氏がオリンピック公式サイトで書いている「女性アスリートの『生理』について話そう:オリンピックスイマー伊藤華英氏がもっと知ってほしいこと(注3)」が出てきた。その中で、「全ての人が同じ知識を持ち、一定の判断をしていくことができるよう、誰でも利用できる仕組みを提供することを視野に入れる。そして、いつでもどこでもアスリート本人が、気軽に相談できる環境の整備を地域ごとに進めたい」が、「これが達成されるのは『100年後ぐらい』」と書かれている。この数字は、記事で紹介されたフランスやカナダなど、低用量ピルの使用が医療行為として認められている国と比較して、日本は大いに遅れているという事実を表すものではないだろうか。

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現在は製品も質が向上しているとはいえ、普通の女性でも経血の処理や生理痛を始めとする生理時の体調の変化の影響は、日常生活や執務への影響は大なり小なりある。しかし、個人差が非常に大きいことや、話しづらい、周囲の理解が得られないなど、生理休暇の取得もなかなか普及しないようだ(注4)。生理中であることが選手の心身に大きく影響する一方で、生理の始まりや生理中の状態は精神状態にも大きく影響されるので、極度の緊張状態や心身の状態になるアスリートにとっては、安心してコントロールできるかどうかは試合などの結果に直接的に影響する。

オリンピック決勝の日に急に生理が来たという元高飛び込み日本代表の中川真依さんの話はそれが良くわかる例だと思う(注5)。

コーチやトレーナーが男性か女性かによっても相談しやすさは違うし、コーチやトレーナーの知識や認識によっては相談しても適切に対応してもらえない場合はまだまだあるのではないだろうか。一方でコーチ側にとっても、気になっていてもハラスメントにも気を遣って声をかけづらいという状況なのだと思われる(注6)。

上述の伊藤氏の進めている「1252プロジェクト」以外にも、普段から気軽に相談できる専門家が出てきている(注7)ことは日本の女性アスリートにとって喜ばしいことではある。しかし、社会や制度、人々の意識が、生理について語ること、生理を医療的にコントロールすることが自然なこととしてとらえられるようになるには、やはり「100年」かかるのかもしれない。

若いころ、テレビでナプキンやタンポンのコマーシャルが流れた時に父がいたりすると、なんだか恥ずかしかったのを覚えている。今も若手の女優が生理用品のCMに起用されるのは、やはり根底に「恥ずかしい」という認識があるのでそれを「こんな素敵な女優さんが大っぴらに生理のことを口にしています、恥ずかしいことではありませんよ」というアピールなのだ。

ちなみに、前からとても気になっているのだが、使用した衛生用品を捨てる物を「汚物入れ」と称するのは何とかならないだろうか…。この頃はサニタリー・ボックス(和製英語だそうだ)ともいうようだが、学校や公共機関施設などでこの呼称が使われることで、生理や出産の出血を「穢れ」としてとらえる認識が無意識にすりこまれてしまうのではないかと思うのは考えすぎだろうか。

注1:MASUJIMA STADIUM | WORKS (asahi-net.or.jp)  

注2: タンポン – Wikipedia

注3:女性アスリートの「生理」について話そう:オリンピックスイマー伊藤華英氏がもっと知ってほしいこと(olympics.com)

注4:生理休暇とは?付与の条件や期間・注意点などを解説 | 労務SEARCH (officestation.jp)

注5:オリンピック決勝の日に生理。潮田玲子&中川真依が女性のコンディション作りの難しさを語る | web Sportiva (スポルティーバ) (shueisha.co.jp)

注6: アスリートと生理|スポーツ指導者が知っておくべき生理のこと (chainon.me)

注7:女性アスリート外来の開設者に聞く、月経管理の重要性とその方法 —① | TORCH (torch-sports.jp)

参考:女性アスリートのパフォーマンスを左右する生理。正しい対処は、身体に及ぼす影響を知ることから