逼迫するトロントの交通事情
文・三船純子
先日のトロントの新聞記事に「私は西に住んでいるけれど、あなたが東なら、友達にはなれない」という見出しがあった。記事の内容は、年々悪化しているトロントの交通事情が友人や家族との付き合い、または新しい出会いのきっかけにも影響を及ぼしているというものだった。 Tick Tok上で、歩ける距離か交通機関で通い合える場所に住んでいる人でないとデートはしない、家の物件条件と同様に新しい出会いの相手も立地条件(自分の住む場所に対しての相手の立地条件)が非常に大事ということが話題になっていたと言うのだ。
パンデミックの数年前から、トロント市内や近郊の交通渋滞がひどくなっていることを感じていたが、なんとトロントの交通渋滞率は2023年度にロンドン(イギリス)とダブリン(アイルランド)に次いで世界387ヵ国の第3位、北米ではトップという不名誉な記録を作ってしまった。トロント市民は平均して年間255時間をも通勤時間に費やし、その平均速度は時速18キロというノロノロ運転なのだそう。この交通渋滞と通勤時間の長さによる経済的な損失は年間で約110億カナダドルになると推定されている。トロントの家賃や物価の高さに加え、悪化し続ける交通事情も、人々がトロントを去りたくなる理由に挙げられている。

トロントの交通事情を悪化させる要因としては、頻繁に工事や閉鎖がされている市内の道路や高速(工事をしている様子がなくてもしょっちゅう閉鎖されているように感じ、工事終了までに時間がかかる)、開設工事が10年以上続いたまま終了の見通しが立たない市北部の地下鉄の新路線(路線は完成しているそうだが、電車を動かすシステムの導入に目途が立っていないそう)、パンデミック前に比べて増えたように感じる車の数(Greater Toronto Areaの現人口は600万人、通勤車数は200万台とされる)などがトロントの交通事情を悪化させる要因とされている。
仕事やイベント参加の為にトロントの北東に位置する日系文化会館に月に1~2回ほど車で出向く。交通渋滞が無ければ、トロント西部の自宅からは車で25分弱の距離である。少し前の週日の夜7時開始のイベント参加の為にラッシュアワーの中を会館に向かった際、2時間近くかかり会館にたどり着いた。あの渋滞の中を毎日車で通勤している人々ストレスを思った。トロントの公共交通機関であるTTC(地下鉄、路上電車、バス)を使って行けば良いのかもしれないが、会館のように立地がTTCではあまり行きやすい場所ではないことも多い。これから会館の週日の夜のイベントに参加するのは二の足を踏むようになるかもしれないと思った。
公共交通機関であるTTCは頻繁に止まったり遅れたりするので、トロントに引っ越してきたばかりのころは、地下鉄が急に止まっても周りの乗客は別に気にするようでもない様子にカルチャーショックを受けた。日本のように乗客に遅滞の謝罪があるわけでもなく、よく聞き取れなくて有名な車内アナウンスでは事情が分からないので、周りの乗客同士で状況を察し合ったり、自分達でTTCスタッフに事情確認をしたりしないといけない。日本の地下鉄や列車システムやサービスからはかけ離れた時代錯誤のようなシステムである。普段は車を運転する事が多いが、たまにTTCを使う度に何かしら問題発生して、よくわからないまま車内で待たされ、地下鉄から緊急走行バスに乗り換えさせられているように感じてしまう。

またパンデミック以降から、TTCの車両内や駅で通り魔的な殺傷事件が立て続けに起きてニュースになった。ホームや車両内で精神疾患者の奇異な言動を目にするのは当たり前の光景となってしまい、それを避ける為にTTCを極力避けるようにしているという人も多い。それも車が増えた一因になっているかもしれない。
トロント市のToronto Region Board of Trade’s Congestion Task Force(トロント市域貿易委員会の交通渋滞タスクフォース)は交通事情の改善を目指して対策を立て、高機能のAIソフトウエアをダウンタウンの主要交差点に設置し、交通量の規制管理を始める予定であるそうだ。その企画案が功を発して、せめてダウンタウンの渋滞だけでも収まってくれることを願う。
私はトロントの西部に住んでいるが、仲の良い友人宅や贔屓にしているベーカリーやお世話になっている美容師さん宅が東に位置している。昔は東方面に車で出かけていたが、近年は極力TTCで向かうようにしている。到着時間が読めないことが多いからだが、それでもTTCの遅延で約束の時間に遅れることも少なからずある。ダウンタウン方面に向かう時にも、空きの少ない割高な駐車スペース探しを避ける為にも、TTCを使うようにしている。なんだかんだと頼らざる得えないTTCは、先週ストライキ開始寸前で組合とマネージメントが合意に達し、数週間以上になるかと予想されたストライキを免れた。通勤で毎日TTCを使う日本人の友人は、あんなサービスレベルの提供でストライキするのは100年早いと息巻いていた。
様々な問題を抱えたトロントの交通事情が向上する日はやってくるのだろうか。
【参考】
https://www.tomtom.com/traffic-index/ranking/