COVID-19入院報告 前半「初めての症例」
文・野口洋美
オンタリオ州のトロント総合病院は、カナダを代表する大病院だ。2024年7月私はここに入院した。ここの医師らが首を傾げ「初めての症例」と口を揃えた、新型コロナウィルス感染症(COVID-19通称COVID)の罹患体験を時系列で紹介したい。
この夏、久しぶりに家族が集まる機会があった。次女の結婚式のためシンガポール在住の三女夫婦が帰省しており、結婚式の2週間前から3人の娘たちと私は忙しい毎日を過ごしていた。毎日が楽しくお酒を飲む機会も増えた。
7月13日(土)次女の結婚式。会場はトロント、ヨークビルのレストラン。
7月14日(日)会場近くの宿泊ホテルをチェックアウト。夫は自宅へ、私は次女宅で翌日からのナイアガラへの一泊旅行の準備。
7月15日(月)三女夫婦、長女、次女と5人でレンタルバイクでのワイン・テイスティング。途中で雨に打たれるハプニングも。18時、ナイアガラの滝が一望できるホテルにチェックイン。夫から体調不良との連絡。
7月16日(火)朝、喉に違和感を感じるが冷房のせいにする。ほぼ同時に夫から陽性報告。とりあえずマスク着用。予定通りの旅程を終え、17時トロントの次女宅に戻る。18時、抗原検査キットでのテスト結果は陽性。(カナダでは、抗原検査キットはドラッグストアで無料配布)

この時点でもまだ喉の違和感以外に症状はないが、心配性の末娘が、薬局で体温計とオキシメーターを購入してくる。これで発熱の程度と血液中の酸素濃度を数値にして把握できると、我が家のリケジョ(理系女子)は胸を張る。(この「COVID二種の神器」がこの先36時間大活躍することになる。)
夫から、彼の友人でもある主治医が、発熱と頭痛が激しい夫のためにパキロビットを処方したとの連絡。米ファイザー社が開発したパキロビットは、2022年日本でも緊急承認を受けた経口治療薬だ。
夫は2022年8月以来2回目の罹患なのだが、このときも高熱が続き、その後も倦怠感を数ヶ月訴えていたので、この「特効薬」を歓迎し私にも勧めた。夫の症状は回復に向かう。
ちなみに私は、夫と共に予防接種を通算5回受けており、罹患経験はなし。
7月17日(水)9時、喉の違和感は、はっきりと痛みに変わる。37度の微熱と共に頭痛も。食欲なし。末娘はせっせと水やポカリスエット、蜂蜜ドリンクなどを運んでくる。
7月17日(水)13時 体温38度。娘の運んでくる飲み物を口にするのが辛くなる。声が枯れ始め、呼吸に音が混ざるようになると、娘は主治医に電話をかけ、彼が夫に処方したパキロビットの処方を打診。
パキロビットとは、高齢者や基礎疾患のある重症化リスクの高い患者に処方される「重症化を防ぐ」薬で、カナダでは65歳以上の患者には無料で処方される。残念!ほんの少しだけ年齢に届かない…
「100%有効であるという保証のない大変高価な薬(1,500ドル)の処方」を主治医はためらう。6時間おきの市販薬タイレノールの投薬が頼みの綱だ。(ここで「Covid 二種の神器」にこのタイレノールを加え「Covid 三種の神器」と訂正する)
7月17日(水)18時、頭痛の他、肩や首にも痛みを感じ、熱も38度を越えたが、何より喉がイタイ!焼け付くような痛み!水もタイレノールも喉を通らない。が、数回のチャレンジでなんとか飲み込んだ。
タイレノールとは、もともと痛み止めとして、ごく一般的に使用されてきた市販薬だが、COVIDの鎮痛解熱剤とされて以来、あまりの人気に製造が間に合わず薬局の棚から消えてしまったこともある。
7月17日(水)24時、眠れず。末娘がタイレノールと水を持って現れる。体温37度5分。酸素濃度95。問題なし!タイレノールを飲み込もうとするが、刺すような激痛に顔をしかめる。タイレノールで熱は下がっても、喉の痛みには全く効かない。
7月18日(木)深夜2時、あまりの咳き込みに末娘が驚き、救急受診を提案。「いやいや、体温37度。酸素濃度95の軽症COVIDでERに行っても追い返されかねない、とりあえず朝まで待とう」
7月18日(木)9時、トロント総合病院のER受付は珍しく空いており、受付後看護師による問診を経て、ER内の個室に。この間30分。異例の速さだ。
単純に「隔離」なのだが廊下に溢れる患者に申し訳ない気分。体温体温38度、酸素濃度正常、心電図正常。肺炎の疑いを払拭するため、まずポータブルレントゲン機が搬入される。座薬でのタイレノール投薬の後。しばらく水分補給ができていないことを理由に点滴を願い出、許される。
7月18日(木)13時、ER研修医の到着、経緯を説明。喉の激痛により唾すら飲み込めない。発声も極めて困難。「息が苦しいのか」と問われるが「肺ではない喉だ!」と訴え続ける。15時、先ほどの研修医が指導医を伴って現れる。「飲み込むとナイフで喉を切り裂くような激痛が走る」のだと繰り返し説明。ERドクターは内科医チームへの相談を決定。
7月18日(木)18時、内科医到着。COVIDの症状としては異例なのでさらに検査を要するとのこと、経口での水分補給が不可能なうちは帰宅は無理であることを理由に入院が決定された。
COVID-19入院報告 その2につづく。