COVID-19入院報告 後半 「原因解明」
文・野口洋美
この夏私は、COVID-19に罹患し、過去に報告されていない珍しい症状を発症した。前半では、入院までの経緯を紹介したが、ここでは、入院から回復までを記録しておく。
さて、入院は決まったもの、入院患者の隔離病室に空きが出るまではERの小部屋で待機せざるを得ない。
昨夜からろくに眠らず看病し、ERでも付き添いを続けていた末の娘が、夜間担当のベテラン看護師の自信と明るさに、やっと帰宅を承知した。次女が引きずるように連れて帰る。
7月18日(木)20時、COVIDのウィルス感染とは異なる細菌感染の可能性を探るため、喉へのスワブテストが行われた。COVIDはウィルスによる感染症なのでペニシリンなどの抗生剤は効かない。しかしもし、私の症状が細菌感染によるものであるなら、抗生剤により一気に回復するはずだ。
スワブテストに続いて、喉の炎症(腫れ)に対処するためステロイド点滴が施される。これが効いたのか2時間ほど眠れる。娘たちにテキストで「楽になった」と伝える。少し気分がよくなったら、水が欲しくなり、少し口に含むと爽快!だがやはり飲み下せず。「水を飲む」という行為をこれほど強く欲したことがこれまであっただろうか。

7月19日(金)8時、朝食が茶色の紙袋で届けられる。牛乳、オレンジジュース、ヨーグルト。ヨーグルトを少々口に入れ苦労の末溶かし飲む。同じ頃、臨床検査技師が現れ採血。
依然として水が飲める状態ではないため、看護師に点滴を打診したとろ、「水を飲む努力を続けてほしい方針である」と却下。 アプリ上で検査結果をチェックしたところ点滴が施されなかった理由は、電解質の数値が正常だったためだと納得。水分が取れていない=脱水ではない。
このトロント総合病院では、血液検査やスワブテストなど、すべての臨床検査の結果が、ER受付時にダウンロードを求められるアプリ上で確認できる。検査結果は判明後すぐに即臨床検査技師によってアップされるので、この検査結果をファローすれば、次にどのような処置がとられるか、ある程度予測できる。
熱は下がった。すべての検査結果が正常。細菌感染の可能性は潰れた。
余談だが、この病院ではPCRテスト結果表示に「陽性」を意味する「ポジティブ」ではなく「異常」という意味の「アブノーマル」を採用している。「なるほど…『ポジティブ』だとなんだかいいことのようなイメージがあるかも」
7月19日(金)10時、昨夜とは異なる内科医の訪問、痛みのある箇所を確認後、CTスキャンの予定を告げあっさり退室。
7月19日(金)13時、CTスキャン。15時、ER入室後30時間経過。朝9時にやってきた末娘があまりに憔悴しているので11時ごろ自宅に戻したものの、さすがに一人でのER滞在が心細くなり、娘たちに連絡。「誰か来て〜」
7月19日(金)16時、次女到着。ERでの付き添いは一人しか許されないので、次に到着した長女と交代しながら、次の指示を待つ。
7月19日(金)18時、耳鼻科医到着。鼻から内視鏡で喉の奥を診察。(「まずこれだろ〜」と、心の中で激ツッコミ!)激しい炎症を確認(だから言ってるじゃない!)昨夜同様、喉の炎症対策であるステロイド点滴開始。終了を待って13階の病室へ移動。
7月19日(金)20時、隔離個室は、なんと浴槽付きのプライベートルーム、ベッドはホテル仕様。
この頃には頭痛や発熱などCOVIDの典型的症状はすべてなくなっていたが、依然として何も喉を通らない。さらに咳と痰は喉の痛みとセットのようで、声もほとんど出ない。だが気分は上々。点滴や投薬のために付けっぱなしになっている静脈針に気をつけながら入浴。ここでも水、水、水の恩恵に!
7月19日(金)21時3人の娘たちと団欒。ここには消灯時間はない。看護師が「付き添いが宿泊できるコッド」を運んでくる。「後で枕とブランケット持ってきたげるからね〜」とやたら親切。24時、娘たち帰宅。
7月20日(土)8時、末娘到着。9時、ステロイド点滴開始。水やジュースを少しづつ試す。痛い!でも「激痛」ではない。「なんとかやり過ごせる」
午前中、末娘とトランプをしながら医師の訪問を待つ。
7月20日(土)12時、昨日の内科医の訪問。「帰れるね」「もちろん!」「じゃ90分ほどくれ」と、医師が出て行こうとするのを引き留め「原因はCOVIDなんですか?」「『そうだ』と言っていい」
この入院の第一の目的であった「飲み込めない原因の究明」のための検査では、COVID以外が原因と考えらる検査結果は現れなかった。したがって「この『今まで見たことのない症状』が、COVIDの影響であるらしい」との結論に至ったようだ。
また第二の目的であった「経口での水分補給を可能にする」はステロイド投薬によって解決した。
7月20日(土)13時、退院許可書が届き、静脈針が外される。三日分のステロイド・タブレットが処方され退院。
7月22日(月)夜、先週火曜日の発症から1週間。抗原検査キットでのテスト結果は陰性。依然として声は出ず。咳は続いている。が、飲食は可能だ。COVIDの症状や後遺症としてよく挙げられる味覚の異常もない。
思うに「次女の結婚式前からの不摂生に加え、疲れた体で雨に濡れ免疫システムが弱ってるところに、COVIDウィルスが、元々あまり強くない喉(過去にも咽頭炎などを数回経験)をアタックした」と言ったシナリオなのだろう。
ともあれ、私のこの稀有な症例がCOVID-19の研究の一端に加わり、別の誰かが珍しい症例で苦しんだ時「過去の例」として参考になると良いと、心から願う。