早期リタイアのススメ?

文・斎藤文栄 

COVID-19が収束しトロントに戻った頃、歳の近い(つまりは50+な)カナダ人の友人に会うたびに、彼らの口から出るのは、早期リタイアや郊外転出の話ばかりだった。

COVID-19で在宅勤務が当たり前になる中で、改めて家族や自分の趣味にかける時間が増えた結果、COVID-19後も在宅勤務をなるべく続けていきたい。そうすると家賃の高いトロントに住み続ける必要もないので、郊外でもっと自然が豊かなところへ転出したい。かつ、もっと自分の生活の質(クオリティ・オブ・ライフ)を上げるためにも、人生を楽しむためにも、早期リタイアしたい。と語る友人が多かった。

私の夫の姉は、最近、早期リタイアし、夫婦揃って退職後のGo-Go期間を楽しんでいる。

なんでもリタイアメントには、ゴー・ゴー(Go-Go)、スロー・ゴー(Slow-Go)、ノー・ゴー(No-Go)と3つの段階があって、Go-Go期間は、身体も元気で、好きなところに旅行したり、新たなスキルを学んだりして過ごし、Slow-Goになると、旅行よりも、ボランティアしたりと地元で過ごし、No-Goになると施設に入って活動はあまりしなくなるため、それぞれの期間にあった貯蓄・人生設計をしてリタイア後に備えることが必要となるという。

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姉夫婦は、二人でキャンピングカーを繰り出し、あちこちの公園を訪ね、自然を楽しみ、他州に住んでいる娘の家族に会いに行ったりしている。まさにリタイア後の黄金期であるGo-Go期間を楽しんでいて、羨ましくなる。

一方でこんな話も聞いた。

トロントにいる同年代の友人は、常々、早期リタイアしたいと言い続けてきたのだが、今年初夏、ついに「リタイアしました!(I’m retired!)」とのたすきをかけた記念写真を送ってきた。彼女の夫は、すでに数年前にリタイアしているので、二人で優雅な日々を送っていると思っていたのだが、夏に会った時に、実はね、と彼女から職場に復帰した旨を打ち明けられた。仕事を辞めて3週間も経たないうちに、元の職場からやっぱり人手が足りないから戻ってきてくれない?と頼まれて復帰することにしたそうだ。

一度退職したので、コンサルタントとして復帰したのだが、社員ではないためさまざまな社内のシステムにアクセスできず、前よりも業務に時間がかかって困っているという。彼女は、こんなことなら、辞めずに短時間勤務にしておけばよかったとぼやいていたが、そんな彼女の顔からは安堵の表情が見え隠れしていた。

ワーカホリック気味の彼女にとって、リタイアして日々やることが決まっていない日々を過ごすのは少々居心地が悪かったらしい。本当にリタイアするまでには、後何回か(嘘の)リタイア宣言するかもね、と笑って話していた。

日本に帰って、早期リタイアの話をすると、とんでもない。働ける限り働くわと言う人がほとんどで、働くことに対するメンタリティの違いを強く感じる。もちろんその背後には、安心して老後を送れない社会保障制度の違いもあるだろう。

カナダでも昨今の物価高で、早期リタイアの夢は変わりつつあるようだ。CBCの記事でも、住宅ローンが払えなくなったから退職後再び働きに戻ったとか、77歳で年金が少ないためにふたつの仕事を掛け持ちしている老人の切実な声が掲載されていた。

カナダ統計局のサイトで2019年と2023年の退職年齢を比べてみると、実は2023年の方が1歳ほど上がっている。理想と現実は異なるということだろうか。

そういえば、私の友人たちも、結局早期リタイアを実行した人はほとんどいず、早期リタイアしたいと叫んでいるだけのような気がしてきた。リタイアを撤回した前述の友人宅では、別の友人が、俺は2025年秋にはリアイアするぞ!と叫んでいたが、彼の妻はいま働いておらず、子どもはまだ高校生・・・。この友人が本当にリタイアするかどうかわかるのは、あと1年とちょっと後のことだ。