トロントの日本語継承学校

文・空野優子

日本語を母語とする人が海外で子育てをするときに、日本語を子どもに教えるか、教えるならどのくらいの時間と労力を費やすか、というのは皆が直面する課題ではないだろうか。

英語が主言語のトロントで、子どもが日本語を習得するのは当然ながら容易ではない。10年ほど前の記事で、嘉納もも・ポドルスキー氏が、カナダでバイリンガルの子どもを育てることを、北国でパパイヤを育てることに例えていたが、私自身子育てをするようになり、なるほど、絶妙な例えだと実感している。

うちの場合は、夫がフランス人で、子どもが小さい時は、子どもなりに二つの言語を使い分けて私たちに接していた。だが、学齢期になると、学校での言葉(フランス語の公立学校に通っているのでフランス語)がメインの言語になり、私が日本語で話しかけてもフランス語で返事が返ってくることが多くなった。3番目の長女にいたっては、私の言っていることは分かっても、日本語の言葉はほとんど出ないまま幼稚園児になってしまった。

これは先輩ママから聞いていた通りで、私の周りを見ても、ある意味自然な子どもの成長過程なのだと思う。

そんな日本語がマイノリティの環境で、ありがたい存在が日本語学校である。

トロントには、幾つかの日本語学校があり、日本の教育システムで教えている補習校の他に、カナダで育つ子どもたちの日本語継承のための学校なども複数ある。(注)うちはその継承語学校の一つ、日修学院に3人の子どもがお世話になっている。

日修学院はトロントのミッドタウンに位置しており、9月中旬から翌年の6月まで、基本的に毎週土曜日、年中(4歳児)から中学2年までの100人余りが通っている。ほとんどが日本人の親がいる家庭だが、最近は、日本の外にルーツを持ち、日本で暮らした後、カナダに移住してきた家庭の児童も数名いる。ただ、親が日本語を十分理解し、宿題のサポートなど家庭学習が行えることが必須となっている。

日修学院は、保護者によって運営されている学校で、学校当番などの役回りが定期的に回ってくる。時間がとられるのは事実だが、学校で子どもたちがすごしている様子に触れることができ、また保護者同士の繋がりも深まる。私は、去年と今年は理事として運営に関わるようになった。事務、教師、そのほか関係者の並々ならぬ努力があって学校が続いていることが理解でき、とても良い経験となっている。

日修学院の授業は、国語、社会、書道、音楽などの教科だけでなく、季節ごとの行事や、幼稚部では童話の時間、中学部では課外授業などもあり、楽しみながら日本語を学ぶ工夫がたくさん組まれている。幼稚部や小学部低学年にはアシスタントや高校生ボランティア(主に卒業生)がサポートに入ってくれるので、少人数で学べる環境になっている。

とは言え、平日現地校という英語やフランス語の学校に通いながら、土曜日に日修学院に通い続けるのは簡単なことではない。うちの子どもの場合は、学校へは楽しく通っているものの、大変なのは宿題だ。学年相当の国語の教科書を使うため、どうしても宿題は漢字ドリルや音読の比重が大きく、学年が上がるにつれて内容も難しくなり、その上教科書には普段の会話で使わない言葉がたくさん出てくる。私自身、親に何かやれと言われると余計反発する子どもだったので、自分の子どもにやりたくない宿題をさせるのは、正直とても気が重い。

ただ、家族で日本に行く時には、私の家族、周りの人と会話ができ、また言葉がわかることで、日本の食べ物や習慣により親しみを覚えるようで、最近は日本語学校に行く意味というのを子どもなりに理解してきたようだ。私としても、英語・フランス語では表現するのが難しいことを日本語で直接話せるのはありがたい。将来、続けて良かったと思ってもらえることを願い、可能ならば卒業まで通ってほしいと思っている。

単純に通いやすい場所ということで選んだ学校だったが、日修学院に子どもを通わせて本当に良かったと思っている。子どもたちが日本語を学ぶためだけではなく、日本語という共通言語をもった子どもと親が集まるコミュニティとしての役割も大きい。たまたま移住した先のトロントにこのようなコミュニティがあって、幸運に思う。

私には北国でパパイヤを育てる自信も熱意も正直ない。最終的な日本語力がどうであれ、周りのサポートで得られるエネルギーをいっぱい吸収して、日本でも、どこでもやっていける子どもに育っていってくれればと願っている。

注)

  • 在トロント日本国総領事館ウェブサイト、日本語学校紹介ページ:

https://www.toronto.ca.emb-japan.go.jp/itpr_ja/ryoji-5.html