トランプ関税に翻弄されるカナダ
文・三船純子
ここ数ヶ月で、カナダ国内の対米国に対する対抗意識が急速な高まりを見せている。対アメリカというよりは、米加貿易戦争によって噴出した反トランプ感情がカナダ国内の結束を強めているのだ。「南の国の“あの人”がまたメチャクチャなことをやってくれてるね」というのが良く日常会話に上るようになった。
本年2月初旬にトランプ大統領(以下トランプ)はカナダとメキシコに対する25%という高額関税措置の実施計画を発表した。この場ではカナダへの関税政策に焦点を当てるが、カナダからアメリカへの輸入品全てに25%の関税を課し、エネルギーに関しては10%の関税を課すという内容だ。今までの外交政策や経済政策の歴史を無視したとしか思えないトランプの発表以来、カナダ国内では予測される経済的ダメージに大きな不安が広がっている。

トランプはこの年明けには対カナダの貿易赤字を理由に、「カナダはアメリカの51州目の州になるべきだ」との発言もした。メキシコとカナダからの不法移民及び違法薬物や銃器の米国への流入が、トランプ関税強制行使の理由とされている。カナダが同じ国内であれば、関税はかけなくて済むというトランプのこの発言に対し、オンタリオ州フォード知事は、「Canada is not for sale(カナダは売り物ではない)」というスローガン入りの野球帽を被ってメディアで反論した。そのスローガン入りの帽子や商品が爆発的に売れているらしい。つい最近ではトロント東部スカボロー出身の人気コメディアンのマイク・マイヤーズが、米国の人気コメディー番組内で、「Canada is not for sale 」のTシャツを着ていたことが話題になった。
コロナ拡大によるパンデミック以来、カナダでは経済的に困窮している人は増え続け、犯罪率も上昇傾向にある。そんな現状下に大統領就任直後に発表された無謀とも言えるトランプ関税の強制的執行は、人々の不安をさらに煽ることになっている。毎日ニュースになるトランプの扇動的関税政策に翻弄される人々の不安な気持ちは、トランプ不安症候群と呼ばれている。トランプの懲罰的な関税政策の強行に、カナダ国民は不安感だけではなく深い不快感と激しい反感を示しているように見える。
米国製品不買運動及びカナダ製品購買キャンペーンにより、米国産の食飲料品の不買が奨励されている。オンタリオ州のLCBO(酒類販売管理店)からは米国産のアルコール類が全て撤去され、「代わりにカナダ産を買いましょう」というサインが出されている。アメリカ産の製品や食飲料品を避け、カナダ産のものを選択することが一般市民の間でもよく会話に上る。
カナダからアメリカへの旅行者が大幅に減少し、アメリカ行きのフライトが多数キャンセルされ、アメリカへ行く代わりにカナダ国内を旅行する人が増えているらしい。アイスホッケーなどのスポーツイベントでは、対米国チームの米国国歌斉唱時にカナダの観客からのブーイングが出ていることもニュースになっている。カナダの近しく親しい隣人であった米国との関係はこれからどんどん変わっていくことになるのか。
カナダのトルドー首相(***)も報復措置として、アメリカからの輸入品に25%の関税執行させ、カナダ政府は違法薬物や銃器のカナダから米国への流入という事実は、不当で誤りであると強く反論している。オンタリオ州のフォード知事は、ニューヨーク州、ミシガン州、ミネソタ州への電力輸出に25%の追加課税を課し、米企業をオンタリオ州の調達契約から排除することを発表した。このような両国の報復的措置合戦は暫く続きそうな気配だ。
2025年年明けから勃発した米加貿易戦争は、カナダ国内の物価高や失業率を促進し、今まで以上に生活に苦しむ人々が増える結果になると予想されている。南の国の暴君的リーダーの不合理な理由づけに基づいた独裁的貿易政策の行く末が危ぶまれる。コロナなどの感染疾患、地球温暖化により増加傾向の世界各地の天災事象など、人間にはコントロールしがたい事象が増えているように感じる。目まぐるしい問題発言続きのトランプ政権も誰も止めることが出来ないまま、カナダだけに限らず世界的な問題に繋がっていく不安が拭えない。
***この記事を執筆中にトルドーは退陣を強いられ、カナダにはマーク・カニー新首相が誕生し、新首相はトランプ関税の脅威には国民の団結が必須だと呼びかけている。
