「七面鳥」と「ターキー」
文・ケートリン・グリフィス
クリスマスをメキシコで過ごしていた友人から「面白い鳥をみかけた」とのメ
ッセージと写真が送られてきた。 色鮮やかなこの鳥、「孔雀の従妹だろうか
?」と友人とテキストでやり取りをしていたが「気になったものは調べる!」
ということでグーグルレンズでイメージ検索をしてみたらターキー(七面鳥)
の一種であることがわかった。そして、このことがきっかけで「何故ターキー
はターキーと呼ばれ、日本では七面鳥なのだろうか?」と素朴な疑問が頭をよ
ぎった。
今回、三船さんの記事に引き続き私も今のカナダとアメリカの緊張状態と貿易
戦争について書こうとも思ったが予想不可能な不安定な日々が続いているので
、あえて自分の気分転換のためにも七面鳥とターキーについて調べたことを伝
えようと思う。
さて、欧米で感謝祭やクリスマスなど家族が集まる時の定番メニューと言える
ターキー。名前の由来など気にしたこともなかったし、てっきりなにか長いラ
テン学名があってその略が「ターキー」なのだろう、というくらいにしか考え
ていなかった。なのでターキー(Turkey)がトルコ国(Turkey)という国名に
由来すると知ったときは本当に驚いた。
16世紀前半、ターキーの原産地である南アメリカを占領していたスペインはア
ステカ王国で家畜化されていたこの鳥をスペイン商人たちがヨーロッパへ持ち
帰り紹介した。割とすぐに人気を得、一般食卓で食されるようになり、特にイ
ギリスで好まれた。英語名の由来は単純で、当時イギリスの認識はトルコ方面
から輸入されていると思っていたため「ターキーの鶏」から次第に「ターキ
ー」だけで呼ばれるようになった。
不思議とそれぞれ国ごとに異なっているターキーの名称を見てみると、輸入国
名や輸入までの経由を意識した命名が多い。トルコでは七面鳥をHindi (イン
ドの、いう意味)と呼ぶ。16世紀前半アメリカ大陸をインドと誤認していた影
響なのだろうか?そのほかにもインドにちなんだ名は例えば、フランスの
Dinde(D’inde インドの、が由来)オランダのKalkoen(カルカッタの)また
ロシア語でも Indeyka(インドから)がある。
インドではどう呼ばれているのかと調べたら、地域で異なるようなのではっき
りしないが、辞書ではPiru(ペルー国)であった。ポルトガル語でもターキー
をペルーと呼ぶらしい。そしてアラビア語ではRoma、ギリシャ語では
Galopoula(フランスの鶏)とそれぞれ当時の歴史背景や交流状況がうかがえ
る。最初にヨーロッパへ持ち込んだスペインでは何と呼ばれているかというと
、Pavoである。Pavoは中世ラテン語で「クジャク」。孔雀かもしれないと思っ
たのは私と友人だけではなかったようだ。
さて、一番カッコいい名が与えられた日本語の「七面鳥」、この名の背景とい
うのは、明治時代にオランダから日本へ持ち込まれた時に、首から上の露出し
ている皮膚の色が興奮すると赤、青、紫などに多色化することから「七つの顔
を持つ鳥」というので名付けられた。洒落ている。
アステカ王国では家畜用のこの鳥をTōtolinと呼んでいた。そんな立派な名を
も無視し、西洋へ持ち出した当時のスペインの一方的支配と侵略を露わにして
いるようだ。
アステカでは野生TōtolinをCuauhtōtolin「森の鳥」やhuehxōlōtlと呼んでい
た。このhuehxōlōtlは「大きいモンスター」という意味が込められている。今
日、メキシコでは七面鳥が調理されたものはPavoだが、生存中や野生のものは
CóconoかGuajoloteと区別して呼ぶそうだ。そしてGuajoloteも「大きいモンス
ター」という意味を持つらしい。ちょっとだけ昔の名残りがあるのでほっとし
た。
友達がメキシコでみた「ターキー」は正式にはocellated turkey (豹紋七面鳥
)であり、メキシコ領内ではほぼ絶滅していると考えられているので、出会っ
た友は運が良かったのだろう。そして、そのおかげで考えたこともなかった七
面鳥・ターキーの名にまつわる歴史に触れることができた。

