女性による女性のライフ・ストーリー
文・斎藤文栄
カナダ中部に位置するマニトバ州ウィニペグ市出身のパートナーが、高校の同級生がいまトロントで劇をプロデュースしているから一緒に行かないかと持ち掛けてきた。劇場は家から歩いて20分くらいのところにあるという。 まだ雪の残る中、週末のイベントとしてはうってつけだと思いさほど内容を聞かず行ったのだが、これがとても良かった。

今回が7回目となるWomen at Play(s)は、女性脚本家による女性の人生を描いたショート・ストーリーを毎年公演している。今年は7本が上演された。劇場となったのは、トロントの東側に位置するAlumnae Theatreのスタジオだ。トロント大学を卒業した女性グループが運営する劇場だが、これほどWomen at Play(s)の上演に相応しいところはないだろう。


Alumnae Theatre・Women at Play(s)が上演されたスタジオ
プロデューサー、脚本家、演出家、俳優が全て女性と自認するカナダ人で、しかもオリジナル。脚本は公募ということだったが、どれもそれぞれに味わいのあるストーリーで、プロによる演出でうまく仕上がっており、演技もうまく、7本それぞれ異なる味付けで、一粒で七度美味しい・・・そんなとても楽しいひとときだった。
今回上演された7つの小作品を簡単に紹介しよう。
Exit Here (出口はここ)
どこか美術館のようなところに訪れた母と娘。死期が迫っている母を、素敵な場所に連れて行ってあげたかった娘と、こんなところに来たくなかったという母。母娘の確執とすれ違いが語られる。とても美しいお話しで、決して仲の良くなかった母を人生のExitへと送り出す娘の表情に胸が締め付けられた。車椅子に乗った母の演技が圧巻。私のパートナーはこれが一番良かったと言っていた。親しい人が亡くなった時を思い出す印象に残る作品。
Celebration of Strife (対立を祝う)
亡くなった友人の遺灰を持って山に散骨に行った女性二人。するともう一人、亡くなった友人の元パートナーの女性と出くわす。彼女も友人の遺灰を持って散骨に来たという。友人は生前、この元パートナーの悪口をさんざん言っていたのになぜ彼女にも散骨を頼んだのだろうか。元パートナーとの対立を挟んで、自分が知らなかった友人の顔が見えてくる。どこかコミカルな登場人物たちのやりとりに笑いもした。親しい人でもその人のごく一面しか見えてないことがある。付き合いにくいなと思っていた人が実はそうではなかったり、時と共に変わる関係もあるよねと、ふと自分の周りの人との関係性を考えさせられた。
Hot Milk (ホットミルク)
夫のためのホットミルクを用意しながら、妻が夫のことを語る一人芝居。チャーミングな妻が日常を話すうちにどんどん怖く見えてくるから不思議。実はこのお芝居を見てから、やけに夜、ホットミルクが飲みたくなる。でもパートナーには作ってもらわない方が良いかもしれない。何が入っているかわからないから・・・。
Toilet Paper for the Apocalypse (黙示のためのトイレットペーパー)
第一部の最後は、地域の図書館に忍び込んだフェミニストな4人組が、女性が書いた本以外は捨てようと蔵書の仕分けを始める。ところが、男性が書いてもバイブルのような本はあるし、それなら黒人の書いた本は?それならこっちは?と、何を捨てるべきか意見がまとまらない。事態を収集しようとちょっと声を上げて仕切り始めたら、それはフェミのやり方ではないと言われるし・・・。せっかく集まったのに、収拾がつかなくなって、いったい誰のためのプロテストなの?となってしまう。なんだか社会運動にありそうな話をコミカルにまとめていた。目的は同じなのにやり方に同意できずに離れていくパターンは結構あるかもしれない。
Half the Sky (ハーフ・ザ・スカイ)
アジア人らしき女性が二人アパートに暮らしている。繰り返される日々。次第にコロナ禍の中国で、部屋に隔離されていることがわかる。まったく会ったことのない二人がなぜ同じところに閉じ込められたのか。実は、この二人は生物学的な母娘だったことが結末で語られる。一人っ子政策をとっていた中国で二人目を産んだものの罰金を払えず娘を手放した女性と、米国で何不自由なく育ったものの、コロナ禍でアジア系の外見から謂れのない差別を受けた(*1)ことをきっかけに、ルーツを探しに中国に来た若い女性。ロックダウンで強制的に共同生活を送る中で、最後に明らかになる結末は、二人の苦い現実を照らし出す。中国の一人っ子政策は1979年から2015年まで続いたが、この政策の下で国際養子に出された子どもの数は、実に16万人と推定されている。そのうち米国に渡ったのは82,000人ほどとのこと。その他、カナダや欧州にも養子に出されている。養子には女の子や障害を持つ子どもが多いという。(*2)本作品の若い女性は米国で育ったという設定になっていたが、カナダでもこういう話は多いに違いない。
Oh Me, Oh Maya (オーミー、オーマヤ)
婦人科のクリニックに来たマヤという若い女性。先日知り合ったばかりの人とセックスをして、もしかしたら妊娠?という不安を抱えている彼女に、パペットを使った天使と悪魔が彼女にささやく。うまくまとまっていたが、よくある話であまり記憶に残らなかった。こういう問題って、本当に世界共通だ。
Going Avocado (アボカドで行こう)
最後を飾ったのは、プロテストをしていて逮捕された女性のアクティビスト5人組。揃いも揃って古参のアクティビストである。留置所の中で出会ったのは、自らプロフェッサーと名乗るトランスベスタイトの女性で・・・。プロフェッサーのやり取りが元気いっぱいに繰り広げられる。私のお付き合いのある日本の70代、80代のアクティビストを思い出さずにはいられず、こんな人たちいるよねー、うんうん、と妙に感情移入してしまった。いつまでも元気に社会運動している彼女たちの世代は、世界共通なのかも。外側は黒くてしわしわだけど、中身はグリーンでフレッシュなアボカドは実は栄養価も高いし、優等食品なのだ。

チケット代は28ドル。最近、IMAXに映画を見に行ったら22ドルだったが、それと比べるとお得感満載である。なにしろスタッフ+登場人物の俳優の数の方が観客よりも多いくらい。泣いたり、笑ったり、とにかく楽しい2時間半だった。ぜひ次回は友人を誘って行きたいと思っている。次回はどんな女性のストーリーを語ってくれるのか、今から楽しみだ。
*1:カナダにおけるコロナ禍のアジア人に対するヘイトクライムについては、本サイトの「アジア人へのヘイトクライムとパンデミック:アジア系女性としての選択」(三船純子)を参照
*2:中国からの国際養子について
Padraig Moran, “China ended its international adoption program. Prospective parents want Canada to intervene:International adoptions have been declining, amid accusations of malpractice” The Current, CBC Radio · Posted: Sep 21, 2024 4:00 AM EDT | Last Updated: September 21, 2024
https://www.cbc.ca/radio/thecurrent/china-ends-international-adoption-1.7329432
China’s Children International https://chinaschildreninternational.org/who-we-are