日本の子供に広がる「スポーツ格差」とは
文・鈴木典子
日本人は横並びとか公平に敏感な気がする。良し悪しを含めて、出る杭は打たれる、雉も鳴かずば撃たれまい、団栗の背比べなどの格言があるし、人間関係でも「空気を読む」ことや「悪目立ち」しないことを重視することが大切だという共通の認識があるのだろう。
「ずるい」という表現は、他人が「不当に」優遇されることへの非難の表明であることが多い。社会の不公平な状態を表すのが「格差」という言葉だ。経済格差、教育格差などは政治の世界でも特に重要な論点だ。
この頃、「スポーツ格差」ということが言われるようになったのをご存じだろうか。

今年2025年ゴールデンウイーク中の子どもの日の前日5月4日、日経新聞の一面トップは「スポーツ 今や「ぜいたく」という記事だった(注1)。「子どもがスポーツを楽しむ機会が家庭の経済状況に大きく左右される『スポーツ格差』が広が」り、子どもがスポーツを経験することによって「ルールを守る大切さや人間関係を学ぶ機会が減る懸念も広がる」と言っている。
スポーツを生で観戦するときのチケット代が高くなり子どもの小遣いでは賄えず「大人のぜいたく」になって、若者が観戦する割合が減っているという。また、サッカークラブや水泳教室などの月謝が高くなり、用具代も上昇している。記事では筑波大学の清水紀宏教授の「経済的に余裕がある家庭しかスポーツに投資できない状況が生まれ、格差が広がっている」という指摘を共有している。この状態は日本だけではなく、「24年パリ五輪の英国選手団の33%は就学人口の9%しかいない私立学校の出身」なのだそうだ(上記記事内の英紙ガーディアン掲載データ)。
音楽や芸術系の活動については、学校の授業以上に技術を伸ばしたい子供は、特定の部に入り、もっとやりたい場合は受益者負担で絵画教室やピアノ教室などに通う必要があるが、それらは格差にはならないのだろうか。芸術・音楽はもともと「ぜいたく」で、授業で体験するだけで十分と思う人が多いのかもしれないが、スポーツだけを取り上げて子どもが無料か安価で体験する機会が減っている、ということにも少し違和感を持った。
同じ日経新聞の5月10日スポーツ面に「スポーツ格差 現状と課題は」というタイトルで上述の清水教授と、子どものスポーツ機会格差の解消などに取り組む国際NGOの日本支部代表加藤遼也氏の発言を記事にしている(注2)。
「昔は公園に集まって体を動かすのが当たり前だった」のが、今は「学校施設以外に自由に使えるスポーツ空間が少な」く、子どものスポーツが習い事になっており、家庭的(経済的)な事情でスポーツをする「スタートラインに立つことができない子供がいるという現状」があるという。
清水教授は、中学校の部活動について、国が進める地域移行が受益者負担を伴う地域クラブへの参加となると、更にスポーツ離れが進むのではないか、「学校と言うコミュニティーの中にスポーツができる場所を整えるべき」と言う。

学校施設を使って行うクラブ活動・部活動は、学校に通う子供にとっては最も通いやすく、信頼できる教員や同級生などとの活動は最も安心できる。しかし、今の部活動は、高校野球の甲子園大会やインターハイなどの全国大会へ進むことを目標とするなど、スポーツをする機会を提供するというよりは、特定の種目に集中して技術と能力をあげ、学校を代表して勝利をあげることが目的になっている。道具も自己負担だ。
「スポーツをする機会」が何をさすのか今一つ明確ではないが、なんにせよ今のままの部活動ではスポーツ格差を埋める役割を担うことは難しいのではないかと思っている。
トロントのように、学校の部活動では毎年、複数の異なる種目を経験でき、私服で参加できて道具も学校の備品を使えるようにするなどで、まずは授業に加えて様々なスポーツを経験する機会を増やせると思う。そうして経験した中から特定の種目に絞って技術を上げたい場合は、「習い事」に移行し受益者負担とすればよい。ただし、その場合も、それこそ経済的理由による格差がなるべく出ないように、安価に利用できる公立のスポーツ施設を増やすとか、引退したプロ選手を指導者として教育するとか、ユニフォームや道具のスポンサーを求める、プロのチームやリーグが育成プログラムとして奨学金を提供するなど、できるだけ負担を減らす工夫がまだまだ必要そうだ。
一方、加藤氏のlove. Futbol Japanが進めるのは、奨励金や用具寄贈など、金銭的な理由でサッカーをすることができない子供への支援だ。スポーツをする場所や機会、条件を整えるために、自己資金で野球場を作ったり、メジャーリーガーの大谷翔平の「大谷グローブ」をはじめとして野球道具を寄贈したりするスポーツ選手もいる(注3)。
このような動きも各地で部活動改革と合わせて進むことを大いに期待する。
注1:日経新聞 「チャートは語る:スポーツ今や「ぜいたく」/観戦、チケット代1.4倍/習い事は親の年収で格差 2025年5月4日(日曜版) 堀部遥記者
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO88471550U5A500C2MM8000/
注2:日経新聞 「スポーツ格差、現状と課題は 「子どもの重要な権利」」2025年5月10日 love.futbol Japan 加藤遼也代表、筑波大学体育系 清水紀宏教授談 堀部遥記者
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO88580420Q5A510C2US0000/
注3:
- DeNA筒香は故郷の和歌山に天然芝を使った野球所を含む総合スポーツ施設「TSUTSUGO SPORTS ACADEMY」を建設した。
https://sports.yahoo.co.jp/official/detail/2024050900014-spnaviow - 大谷グローブ(おおたにグローブ)は、プロ野球選手の大谷翔平が日本全国の小学校に寄贈した野球のグローブの俗称。2023年(令和5年)11月9日、大谷とニューバランスは、日本国内の約20,000校の小学校に約60,000個のニューバランス製ジュニア用グローブを寄贈することを発表した。
- 日経新聞「元日本ハム斎藤さん、小学生向け球場新設「野球界に恩返し」」2025年5月10日 元日本ハムファイタース齋藤佑樹選手
- 朝日新聞 「子どもに野球を、夫の遺志 殿堂入り後、活動始めた矢先に病」2025年4月22日 元広島カープ北別府学選手
https://www.asahi.com/articles/DA3S16199544.html
Next Player’s Foundation(NPF) https://np-fd.com/npf/