日加の青少年の「キャリア」の考え方の違い
文・鈴木典子
※今回の原稿は、全面的に生成AI(CoPilot)に参照データと整理を依頼して作成してみたことを、初めにお断わりしておく。
2026年7月の空野さんのカナダの大学進学事情の記事を読んで、息子たちがオンタリオ州の公立学校にいたころに驚いたことを思い出した。小学校4年生から自分の「キャリア」、自分が将来どうやって生きていくかを考える授業があったのだ(渡加時は我が家の3人の息子の一番下が4年生だった)。
今回調べてみたら、これはカナダの中でもオンタリオ州特有の考え方のようで、なんと幼稚園から高校三年(Grade12)まで、つまり義務教育の始まりから終わりまでを通して、「Career Studies」として自分の生き方を考えることをずっと重視しているということを初めて知った(注1、注2)。
幼稚園では社会の中にどのような仕事があるかを知ることから始まり、人との関わり、自立心、協同性やリーダーシップ、問題解決、言葉での他人との交流が重視されている点は、日本の幼稚園と共通している(注3)。日本とオンタリオ州の最も大きな違いは、オンタリオ州では幼稚園から高校まで、以下の共通フレームで一貫した教育が行われるという「制度設計」の違いだ。
- Who am I? 私は誰か(何者か)
- What are my opportunities? 私にはどのような可能性があるか(高等教育、職業を含む)
- Who do I want to become? 私はどのような人になりたいのか
- What is my plan? 私はそのために何をするのか(一生の計画(ライフプラン))
教育の最初の段階である幼稚園での違いは、日本は「まず人間形成、その後キャリア教育」と位置付けるが、オンタリオ州は「人間形成そのものがキャリア教育の始まり」としているという発想の違いである。
オンタリオ州と日本の別の大きな違いは、教育を受ける選択肢の違いだ。
カナダでは「Adult Learners(社会人学生)」や「Mature Students(25歳以上の学生)」が一般的だ。カナダの学部学生の23.3%が25歳以上の成人学生(注4)であり、高校卒業後に働き始める人もいるが、その後にカレッジ・大学へ戻るケースも多い。また、カナダ政府の調査では、25~62歳で就業経験を持った後に高等教育へ戻った成人学習者を独立した集団として分析していることからも、社会人の学び直しが一定規模存在することを示している。明確な数値での調査はないが、特に看護、教育、MBA、IT分野では就職後に大学・大学院へ戻ることは一般的である。
一方、日本では大学受験で高校卒業時すぐに入学できない「浪人」は社会的に認知されている一方、大学で進級や規定年限での卒業ができない「留年」は「怠け者」「勉強不足」と同義語と思われることが多い。高校での「留年」は文字通り「落ちこぼれ」とみなされる。
また、近年社会人の「学び直し」「リスキリング」が推奨されるようにはなったものの、育児休業同様、休業中の生活保障が不足したり、部署での後任の配置がないために同僚への負担が大きいなどの制度上の不備、そもそも仕事・家事・育児などが大変で時間が取れないなどの障害がある。
「25~34歳の高等教育修了率」をカナダと日本で比較すると、カナダ67~73%、日本65~6%と差はあまりないが、修了のタイミングが大きく違う。日本では18~22歳頃に集中しているのに対し、カナダでは25歳以降に戻って取得する人が多いのだ。
文部科学省資料では、日本は学士課程(大学)への25歳以上入学者割合はOECD諸国の中でも低い水準で、社会人となった後に学校(大学・大学院・専門学校等)で学び直した経験がある人は約19%、学士過程への25歳以上入学者割合は約2.5%という少なさだ(注5)。
日本で「進路指導」というと、中学では職業理解と「高校進学」が主となり、高校1年で理系文系を選び選択科目を決めると、高校3年生の職業選択と就職指導につながる。
オンタリオ州では高校の選択科目の範囲が広い。中学までで積み上げてきた「4つの共通フレーム」から自分のキャリア(職業)に必要な知識や技術を導き出す。それらを身に着けるために進学したい大学の学部やカレッジ(日本でいう短大または専門学校)の候補があがる。進路指導の教員に相談しながら、それぞれの指定する「必修科目と最低点数」をクリアするために科目を選択し、クリアできる成績を目指す。もちろん理系の職業・大学を目指して科目選択をしていた生徒が高校の途中で文系に変更するのは大変だ。しかし、社会全体として「留年」「転校」が比較的珍しくなく、高卒資格を取得していない成人が高校過程に戻る制度や「成人向けの高校」も整備されているため、普通の高校に20歳の生徒が在籍することはよくあるので、「進路変更」は決して「負け」ではなく「遠回り」でさえない。
ここには、カナダの大学入学資格が、試験ではなく高校の最後の1年半の成績であることも大きく影響している。高校で何を学んだかをもとに大学・カレッジに進学し、そこでは自分の可能性を求めて更に知識や技術を身に着け、社会に旅立つというステップなのだ(もちろん、大学で専攻した分野や目標としている会社に就職できるかはまた別の問題だが)。
一方で高校卒業資格に「ボランティア」があり、地域の様々な場で「働く」経験を重視しており、大学卒業前のインターン制度が普及している(安価な労働力として学生を組み込むことへの懸念もあるが)。さらに大学でも、転科、転校、学位をとる前に就職するなどはかなり自由だ。
自分のキャリアを追求するために時間をかけることは、在学中であろうと就業中であろうと、努力として評価されることであり、「何度でも学び直して方向転換し、よりよい自分を目指すことができる」ことを前提に制度が設計されているのだ。
日本では、高校も大学も社会人も、進路の途中で休んだり進路を変更したりすることが、社会的に受け入れがたいという「国民感情」「社会通念」があるのだ。最終的に就職した後、雇用者側も労働者側も、一生その会社で定年まで働くことが前提だった、ということが大きいのかもしれない。ただ、カナダでも我々の親の世代までは一生定年まで同じ会社で働くことが「当たり前」だったようなので、日本とカナダの現在がどこから違ってきているのかについても、知りたいところだ。
我が家の息子たちはというと、長男はカナダの大学でキネシオロジー(身体運動学)を専攻した後、トロントで日本からの留学生を受け入れる会社に就職し、今は日本でその会社の日本支社の現地職員として勤務している。次男は米国の大学、大学院でカイロプラクターの学位をとり、米国で開業している。そして三男は米国の大学からトロント大学に転校したものの卒業はせず、日本でプロ野球選手を目指したが叶わず、今は日本で建築業で自営している。3人とも、それぞれが自分がしたいこと、自分の可能性をしっかり考えた結果、選んだ道だと思う。
高校生の時に数学が苦手だったので文系を選び、公務員試験に挑戦する根気がなく独立行政法人に就職し、夫に随行してエジプト、カナダの生活を経験したものの、いまだ自分が何者か、自分に何ができるのかわからずにいる私としては、うらやましいような誇らしいような…。
日加比較は、どちらがよいか、という判定ではない。どちらも利点と欠点があり、隣の芝生が青く見えたからと言って隣に引っ越すことはできない。だが、様々な生き方、考え方があることは理解し、受け入れられる柔軟性はもっていたいものだ。
補足資料
補足:日加の義務教育制度の違い(「義務教育」というのは、「国が一定年齢の子どもに教育を保障し、保護者にその子どもを就学させる義務を課し、全ての子供に教育を受ける権利を保障する」制度とする):オンタリオ州は上述の通り幼稚園からGrade12までが義務教育、日本は小学校と中学校。文部科学省調査によると昨今の日本の高校進学率は約99%(注)、近年は公的補助により「高校無償化」は進んでいるので、実質義務教育と同じようにほぼすべての子どもが高校教育を受ける権利を行使しているように見える。
上記から両国とも高校がほぼ義務教育とみなし、義務教育後の高等教育進学または就業の状況についてみてみると、かなりの違いがあることがわかる。日本の高校卒業後就職希望者は卒業生の約13.8%(注)とあるが、カナダの同条件での比較は難しい。
注:文部科学省2026年8月 高卒就職率98.0%、就職希望の高校生は減少…文科省 | リセマム
日本: 高校卒業後すぐ就職する人は、約14%前後、就職率は98%(文部科学省発表の2025年3月高等学校卒業予定者の就職状況(3月末現在))。
注:Student Pathways and Supports: Investigating Retention and Attrition in Mature University Students 2015 Guelph大学 https://atrium.lib.uoguelph.ca/server/api/core/bitstreams/1de75620-da9b-4f0d-b71e-568d73455cad/content
注1:オンタリオ州政府2025年7月 幼稚園からGrade12(日本でいう高校3年)までの「Education and career planning」
https://www.ontario.ca/page/education-and-career-planning
注2:オンタリオ州政府2022年4月「Creating pathways to success: an education and career/life planning program for Ontario schools」https://www.ontario.ca/page/creating-pathways-success-education-and-careerlife-planning-program-ontario-schools
注3:【参考資料1-16】幼児教育ワーキンググループ、保育専門委員会取りまとめ(案)※会議後修正
注4:高校が義務教育ではないが進学率が高い国は、日本(義務教育は小学校6年+中学校3年)、韓国、中国、ドイツ、フランス、イタリア、インドなどだ(ワールドバンク調査等)(注4)。一方で、アメリカ、カナダ(オンタリオなど一部州)、イギリス(イングランドでは18歳まで)、オランダなどは、16~18歳頃までの就学や教育訓練を義務づけており、日本より義務教育期間が長い国だ。
| 国 | 高校が義務教育ではない国での高校進学率・就学率の目安 |
| 韓国 | 約96% [data.worldbank.org] |
| 中国 | 約92% [ceicdata.com], [ceicdata.com] |
| ドイツ | 約100% [data.worldbank.org] |
| フランス | 約104%(総就学率。留年などを含むため100%超になる場合あり) [data.worldbank.org] |
| イタリア | 約95~101% [data.worldbank.org], [data.worldbank.org] |
| インド | 約80% [data.worldbank.org], [theglobaleconomy.com] |
| 日本 | 約98.6% [ipss.go.jp] |
注5:カナダ政府2023年「Research summary – Characteristics and barriers of adult learners」https://www.canada.ca/en/employment-social-development/corporate/reports/research/characteristics-barriers-adult-learners.html
注6:カナダ政府2022年?「YOUTH EMPLOYMENT, SKILLS & LEARNING」
https://www.canada.ca/content/dam/esdc-edsc/documents/corporate/reports/esdc-transition-binders/2024-december-transition-binder-thompson/7-youth-employment-skills-and-learning-en.pdf
注7:OECD 2020年「リカレント教育の現状」https://www5.cao.go.jp/keizai2/keizai-syakai/future2/chuukan_devided/saishu-sankou_part4.pdf 大学・大学院の社会人入学者数は長年ほぼ横ばい。
参考:オンタリオ州の高校のCareer Studies:キャリア形成、進学計画、就職準備、履歴書作成、面接対策、金融リテラシーまでを一つのカリキュラムで体系的に学ぶ。専任の教員がいる。
日本のキャリア教育:特別活動、総合的な探究の時間、家庭科、公民科(公共)、進路指導に分散しているため、生徒から見ると「キャリア教育」という一つのまとまりとしてとらえにくい。教員も各科目、担当に分かれている。
参考:オンタリオ州の高校のキャリアスタディについて 2025年「Education and career planning」
https://www.ontario.ca/page/education-and-career-planning
参考:文部科学省「高等学校キャリア教育の手引き」平成23年11月
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/career/1312816.htm
参考:カナダ政府2023年「From high school, into postsecondary education and on to the labour market」
https://www150.statcan.gc.ca/n1/pub/81-595-m/81-595-m2023004-eng.htm
参考:カナダ政府2023年「Research summary – Characteristics and barriers of adult learners」
https://www.canada.ca/en/employment-social-development/corporate/reports/research/characteristics-barriers-adult-learners.html
