「ある職場の組合化 2: いよいよ組合化の投票日へ」

文・三船純子

その後、スタッフの多くが夏の休暇に入り、スタッフの盛り上がってきた意気が無くなってしまう前に、組合化採決投票を実現させようということになり、速急に、親組合を通して組合化申請手続きを進めることになった。その間にも、親組合から担当者がランチタイムや就業時間後に最寄りのレストランなどで、スタッフの質問に応える説明会を何度か開いた。親組合からオンタリオ州労働局へ申請所が提出され、その通知が上部に届くのが数日後である。そこで上部は、初めてスタッフから組合化申請が労働局へ提出されたことを知ることになる。そして週末をはさんで二日後に組合化最終決定の投票日が設定された。

投票日までの数日間は、スタッフの誰もが疑心暗鬼になり、戦々恐々する毎日となった。親組合担当者から、上部は組合化反対キャンペーンを繰り広げるだろうと示唆されていたのが、それが現実となった。上部がトロントでも有名な弁護士事務所の弁護士を雇ったらしいという噂が流れ、トップが組合化反対を推奨するミーティングを持ったり、全スタッフにメールでメッセージを送った。そして、管理職が、まだ迷っていると見なされたスタッフや、契約スタッフなどの家に電話をかけて、プレッシャーを与えたことが電話を受けたスタッフからの報告で明らかになった。管理職が従業員に「どのように投票する予定であるか?」と質問することは違法ではないが、「組合化には反対投票をして欲しい」という言い方をするのは違法になるらしい。組合化執行委員会のメンバーもそれに対応して、さらなる情報提供や説得を続けるという状況で、仲のいい友人であった同僚間で組合化に関して意見が真っ向から割れて微妙な雰囲気になってしまったり、心変わりしてしまったらしいスタッフがいたりと、ゆっくり眠れないままに投票日を迎えた。

組合化採決投票は二カ所あるオフィスで、時間をずらして行われた。労働局から派遣された担当者が厳格に管理して投票が行われる。一つのオフィスで投票が終わり、もうひとつのオフィスで行われた投票で、人事部のスタッフが管理職を代表して、私はスタッフ代表として投票と最終開票に立ち会う機会を持った。投票中にも、上部が投票に影響を与えるような言動は一切禁じられている。それまでの数ヶ月を同僚と共に夜遅くまでやりとりしながら其の日に臨んだ私は、同士の同僚と同様緊張していた。執行委員会の予想リストによると、50%以上の同意は優に得られるはずだが、ここ数日の間に管理職側からのプレッシャーもあり組合化反対に心変わりした同僚もいることもわかっているので、心穏やかではなかった。

開票にはトップと親組合の担当者も入室して、労働局の担当者が一枚一枚投票用紙を、「Yes 」「No」と読み上げていった。変更できない休暇やトレーニングなどで投票参加できなかったスタッフを除いて、47名が投票し、28名の支持票を得て、組合化が可決された。結果がわかった途端、私はそれまでの緊張が解けて不覚にも涙が出てきてしまい、思わず隣にいた組合担当者と抱き合っていた。上部にとってはこの結果は予想外だったらしいということが、彼らの様子からわかった。当事者の私達にとって、この組合化のプロセスは、まるでソープオペラのよう感情が揺さぶられるものとなった。同僚間の絆がさらに強まったり、それまでよく知らなかった同僚と話しをする機会が持てたり、意外な一面を発見させられる同僚がいたりする反面、組合化執行委員のメンバーが余計なことをしてくれたと感じていた同僚もいたようだ。トップやマネージャー達も、ストレスレベルが上がるプロセスだったに違いない。

カナダの国税調査によると、カナダの労働組合化は19世紀の産業化に伴って進み、その後1960年代までは男性組合員が一般的であった。その後は70年代、80年代を通して組合化率は減少し、1981年の37.6%から2014年の28.2%となっている。現在は主に女性でオフィス、学校、病院に勤務する公共サービスや医療・福祉・介護分野女性の組合員が一般的であり、工場従業者や鉱山従業者などのいわゆる肉体労働者の占める割合はここ20~30年の間に減少している。また公共部門では71.3%の組合化率は、民間部門では15.2%に留まっている。(Statistics Canada: Long term trends in unionization, D. Galaneau and T. Sohn, 2017)これからの傾向は、女性スタッフが9割を占める私の職場が、オンタリオ州から運営資金を受領している半公共機関であることと、よく当てはまっている

組合化最終採決の投票日から2週間ほど経ったある日、トップと彼のオフィスで話をする機会があった。それまで仕事で顔を合わせるとこがあっても、組合化のことに関し、彼とゆっくり話をする機会はなかった。両サイドが今回の組合化を機会に、今まで以上にひとつのチームとして前に進んでいこうという話の後で、私は彼に投票日に感情的になって涙を流してしてしまったことを詫びて、にっこり笑って握手でもできたらよかったのだけれどと言った。彼は握手は今でもできるよ、と言って握手を求めハグしてきた。彼は今回のことを通して前向きに変えていこうとしているのではないかと感じられた。

組合化をすることで、職場の雰囲気が悪くなる、必用最低限以上のことをしないスタッフが増える、融通の利いていた勤務時間や休暇がそうでなくなってしまうなどの懸念は、これからの動向を見守るしかないが、トップを含んだ管理職サイドとスタッフが、協力的に前進していける組合い交渉になっていくことを心から願っている。これから正式にスタッフ代表を数人選出し、アンケートにより優先順位がつけられた労働環境、条件、賃金などに関する団体交渉を進めていくことになるが、その過程でまたいろいろなドラマが繰り広げることであろう。

今回の私の職場の組合化について、亡くなった父に話していたら、父はなんと言っただろうかと思った。

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