Silver Lining: 緊急事態の中の明るい光
文・三船純子
新型コロナウイルスの世界的感染拡大は、瞬く間に私達の生活を変えてしまった。
3月24日、トロントでも緊急事態宣言が出された。世界人口の20%がロックダウン(強制的外出禁止)下にあると言われている。日本や世界各国の状況を心配しながら、トロントで刻々と生活の流れが変わっていくのを実感している。
数週間前まで友達とレストランで会い、のんびりと買い物をしていたはずなのに、今では食料の買い物に行くのにも、周りの人との距離を心配しながら、レジの列に間隔を置いて離れて待っている。買いたかった物が買えずに帰ってくることもある。
安全対策措置の為、学校は休校になり、多くの人が在宅を余儀なくされている。自分はまだ仕事に行く毎日だが、日毎に人影や車の数が少なくなっていくのを通勤時に目にし、トルドー首相が「出来る限り家に滞在するように!」とニュースで呼びかけるのを耳にする度に、不安は膨らんでいく。
世界的な経済への影響が心配される中、オンタリオ州でもビジネスの閉鎖勧告発令の影響で一時解雇されたり、感染の疑いで在宅隔離を余儀なくされた人が増え続けている。心身の健康増進や社会的孤立を防ぐ目的の様々なプログラムも全てキャンセルとなり、感染防止の為に社会的距離を行使していくことの心身への影響は、長期化するにつれて大きな問題になっていくことが予想される。
そんな緊急事態の中、明るいニュースや人々の柔軟性にも目を向けてみたい。
アメリカの研究によると陸と空の交通量が減ったことで、二酸化炭素の排出量が50%減少したそうだ。水の都として有名な人気観光地であるベニスでは、観光客が激減したことで、運河の水がきれいに澄んで、鴨や鵜が舞い戻ってきているそうである。
オリンピックを始めとする多くのスポーツ・イベントやコンサートなどが延期やキャンセルになる中、パフォーマンスや国立公園や美術館のツアーなどが、SNSやネットなどを通して、シェアされている。
在宅待機が奨励されても、散歩や外での個人の運動は現時点では許されているので、近所を散歩している人がいつもよりも増えている。天気がいいと、公園はいつもより人出が多いように感じる。
読みたかった本を読む、片付けや掃除をする、料理をする、オンラインで新しい言語を学ぶなど、今まで時間が無くて出来なかったことをしてみたり、趣味に精を出してみたりする人も多い。
家で一緒にいる時間が増えて、喧嘩も増えるかもしれないが、家族と貴重な時間を過すことも可能になった。子供が5人いる知人は、自分も在宅勤務中なので、子供のインターネットへのアクセスを最小限にして、毎日のスケジュールを決めて、運動と散歩を日課にし、餃子作り、デザート作り、キムチ作りなど、家族の共同作業を積極的にしているそうだ。
実際に会う機会が無くなってしまっても、友人や、一緒に住んでいない家族との連絡を、電話やネットなどを通して密にしていくことが大事になってくるだろう。
現状の長期化が懸念される中、未来が見えなくなってしまった事に、多くの人が不安を膨らませている。それぞれが個人レベルで柔軟に対応することを余儀なくされている。 個人ではコントロール出来ない現状をなるべく受け止め、バランスを取る工夫をして対応していくことが求められている。助けを必要としている人に手を差し伸べる、自分自身のセルフ・ケアを大事にする、友人知人などとの連絡や相互援助に励む、毎日の生活リズムを崩さないようにするなどに努めることで、不安の波に溺れてしまわない生活を心がけていきたい。
地域のボランティアのグループが、シニアや障害者やシングル・ペアレントなどへの食料などの配達の無料サービスをスタートしたりしている。各政府レベルでの様々な対応及び支援策が声明される中、混乱はあったとしても、混迷や困窮しない状況が維持されていくことを心から願って止まない。