日本滞在記④ 日本のPCR検査とワクチン接種の予約システムに関する雑感

文・嘉納もも・ポドルスキー

日本ではそろそろ東京オリンピックの開幕式を迎えようとしており、その前に私の日本滞在記も最終稿をアップロードしておきたいと思う。

本記事で取り上げるのは日本で私が使ってみたPCR検査とワクチン接種の予約システムについて、そしてそこから浮き彫りになった日本の問題点についての雑感である。

日本に帰国するにあたって、渡航72時間前のPCR検査を実施してもらった近所のドラッグストアでの経験については、3月1日付の記事(https://thegroupofeight.com/2021/03/01/traveltojapan/)で書いている。なかなかスムーズな流れでオンライン予約から結果のメール受信までが滞りなく運んだと記憶している。

この時、ドラッグストアで提出が必要となったのはパスポートだけであり、その他は結果を送るメールアドレスなどの連絡先の登録で済んだ。

ところが日本からカナダに戻る時のPCR検査の予約にはひと苦労した。5月半ばの時点では、私の実家のある神戸近辺でPCR検査が受けられる場所は幾つかのクリニックや病院に限られていた。検索に取りかかったところ、友人が「経産省が新しく作った予約システムがあるからそれを利用した方が確実ではないか」という情報を送ってくれた。

これでひと安心と思ったのもつかの間、その「TeCOT」というシステムがものすごく使いにくかったのである。

要は「日本在住の渡航者」を想定して作られたシステムであるため、日本を一時帰国で訪れている場合は「渡航期間」を入力する段になって「(日本への)帰国日時」が無いのだから困ってしまう。ましてや外国人が来日してこのシステムを使おうとすれば、名前の入力からして「全角文字のみ入力できます」などというエラーメッセージが出て、戸惑ってしまうだろう。

「全角文字」というと大文字のアルファベットのことかと思いきや、いやいや、「漢字・ひらがな・カタカナ」しか受け付けてくれない。

問い合わせの電話番号が記載されていたので試しに掛けてみると、驚いたことに録音音声だけではなく、ちゃんと生身の人間まで行きついた。電話口に出た若い男性が、「まだ出来立てのシステムであるため色々と不具合はあるかも知れない」とえらく低姿勢で応対してくれた。

しかしこちらからの質問に対して、分からない点については「明日、責任者と確認してこちらからお電話させて頂きます」というので何とも頼りない。やれやれ、と思いつつも一晩、待つことにした。

だがその電話が掛かってくる前にまた別の事実が判明した。TeCOTには英語のページがあるのだが、そこからは予約システムにつながるようになっていないのだ。

https://www.tecot.go.jp/english/

日本語ページからしか予約システムに入ることができないので、一体何のために英語のページがあるのか分からない。

https://www.tecot.go.jp/

翌日、電話を掛けて来た「責任者」さんにこの点について質問をすると「あれ(英語のサイト)は一応、TeCOTというシステムが出来ました、というお知らせを英語でするのが目的で」と認めるではないか。

そしてまたこの日も「お答えできない事に関してはこちらで調べて折り返しお電話を…」と言うので、とうとう「もう結構です、私のことは放っておいて下さい!」と叫んで切ってしまった。

問い合わせに丁寧に対応しようとする姿勢は評価できるが、あまりにも埒が明かないのだ。せっかく情報をくれた友人には申し訳ないと思いつつも「TeCOTだかティーポットだか知らないけど、全然、使い物にならない!」と報告をすることになった。

では私はどのようにしてPCR検査にありついたのか?

幸い神戸には外国人が昔から多く住んでいるため、ちゃんと私の様な海外在住者にも親切なクリニックが見つかって、期日内に何の問題もなく検査を実施してもらえた。そして証明書の名前の表記や現住所などに関してもテキパキと対応してくれた。

当たり前だが日本だからといって、どんな渡航者に対してもPCR検査が臨機応変に出来ないわけがない。誰が検査を必要としているのかについての思慮が、日本の政府やお役所には足りないだけなのである。

電話口で経産省の職員に「あなた達はグローバリゼーションだとかオリンピックだとか言ってるけど、日本在住の日本人以外の人のニーズに関して想像力が働いてないんですよッ!上の人にもちゃんと伝えておいてくださいッ!」と説教したのだが、全く効果はなかったに違いない。

その証拠にこの記事を執筆している2021年7月19日現在、TeCOTのウェブサイトを再度チェックしてみたが、体裁が少し変わってはいるものの仕組みは全く同じであった。

一方でコロナ感染対策のカギとなるワクチン接種に関しても、日本の取り組み方に対して疑問が尽きない。オリンピックという最も感染拡大を招きそうな巨大イベントを主催するにあたって、国のトップがどうして死に物狂いになってどの国よりも先に自国民にワクチン接種を施そうとしなかったのか。未だに理解に苦しむのである。

接種の優先順位に関しても医療従事者をまず最初に、としたのはまだ分かる。だが次に施設に入居している高齢者を対象とせずに、ただ年齢順に予約の枠を開けて行ったのは思慮が浅かった。接種の開始が遅れたのであればせめて他国から学ぶことくらいできただろうに。

予約システムについても語り出せばきりがない。冒頭でも触れたPCR検査予約にも当てはまることだが、母のためにワクチン接種を予約しようとして、あまりにも神戸市の提供しているウェブサイトが使いにくくて愕然とした。一体誰がこんな難解なサイトを使いこなせるというのだろうか。

私などは職業上、検索に慣れている方だが、それでも予約を確保するまでに多大な労力を要した。各自治体の役所に「お助け隊」が出動して、押し寄せた住民一人一人の予約を代行せざるを得なかったのも無理はない。

そして多くの場合、実際に接種を施したのは町の小さな医院のスタッフである。掛かりつけの医師に打ってもらうのが一番安心だから、という上からの指示があったからだが、いきなりそのような重責を押し付けられた側は大変だっただろう。

一回目の接種のために予約先の近所の医院に母を連れて行くと、通常の診療も行いながらワクチン接種の業務を担うので待合室は混雑を極めていた。時間通りに作業を行うために医師も看護師も受付の事務員も総出で必死で対応に当たっていた。

国のトップの判断が不味いとしわ寄せは必ず現場に来る、というのはお決まりだが、日本の場合は現場の人たちが有能で勤勉であることに救われている感がある。そのおかげで今となっては日本のワクチン接種のペースは世界の上位を誇っているのだが、政府のお偉方にはまさか自分たちの手柄だとは思って欲しくない。

コロナ・パンデミックの到来によって、世界中の国々が抱える問題点が露呈する一方で、それぞれの社会や国民の長所なども浮き彫りになっている。日本はオリンピック主催を請け負ったために現在、世界の注目を集めているが、どうか悪い面ばかりがクローズアップされるのではなく、最終的には良い面もしっかりと見てもらえますように。

すでにオリンピックの選手村や事前合宿の開催地で起こっている感染拡大のニュースを暗澹たる気持ちで見守りつつ、現場で全力を尽くしているスタッフやボランティアの方々の無事を祈っている私である。

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