気候変動とジェンダー:「We don’t have time」

文・斎藤文栄

仕事で「気候変動とジェンダー」について話しをする機会があり、最近、色々と調べている。

昨年(2021年)11月にスコットランドのグラスゴーで開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP 26)では、産業革命以来の気温上昇を1.5度に抑えるべく、各国が集まり削減に向けた議論をつくした。期間中には「ジェンダー」もテーマ別課題として取り上げられ、1日、気候変動による影響を受ける女性や少女、とくに脆弱層の人々への影響に関するセッションなどが開催された。

COP 26には、カナダの前の環境・気候変動大臣であるキャサリン・マッケナ氏も私人として参加している。彼女は政治家を辞めた後も、気候変動に関わり続けるべくWomen Leading on Climate という団体を作り、Student Energy という若者の団体と一緒に活発な活動を続けている様子をCBCラジオのインタビューで語っていた。

COP26会場でポーズをとるマッケナ氏 @cathmckenna, Nov 6, 2021

気候変動は、女性・少女、そして社会の脆弱層により深刻な影響を与えることが警告されている。COP26の合意文書でも、「気候変動対策に女性の参加を拡大し、ジェンダーに対応する実施を確保することが気候目標を達成するために不可欠」と明記された。

実際、意思決定過程への女性の参加は、気候変動対策と表裏一体である防災対策についても、よく言われていることであるし、さらに言えば、あらゆる政策でジェンダーを主流化する過程での第一歩として常に強調されることだ。

ただ、悲しいかな、議論のテーブルに参加する上で、女性には二重三重の足枷がある。

マッケナ氏は昨年のカナダ総選挙に、閣僚でありながら早々に不出馬を宣言。議員生活をたった6年で終えた。議員在任中、彼女は常々、プライベートで家族といる際に『F—k you, Climate Barbie』と暴言を吐かれたり、事務所に大きく女性の性器を表す言葉がペイントされるなど様々な誹謗中傷に晒されていることが報道されていた。彼女は、不出馬の理由として家庭の時間を大切にしたいと語っているが、もし彼女がそうしたことを経験しなければ、政治を続ける選択肢があったのではないだろうか。

日本でも、内閣府が行った調査で、議員活動や選挙活動中、女性がよりハラスメントを受けやすく、また内容も、男性よりも女性の方が性的なハラスメントやプライベートに関するハラスメントを受けている実態が数字で明らかになっている。

調査では、男性23.5%、女性の57.6%が議員活動や選挙活動中にハラスメントを受けているが、男性はおもにSNS・メールでの中傷・嫌がらせ、見返りの要求というハラスメントに対し、女性に対するハラスメントには「性的、もしくは暴力的な言葉(ヤジを含む)による嫌がらせ」(26.8%)、「性別に基づく侮辱的な態度や発言」(23.9%)、「身体的暴力やハラスメント(殴る、触る、抱きつくなど)」(16.6%)と直接的な侮蔑や身体的接触によるハラスメントがトップを占めていることが明らかになった。また「年齢、婚姻状況、育児や出産などプライベートな事柄についての批判や中傷」については、男性が4.3%に対し女性が12.2%と、女性は男性の3倍近くも私生活に基づく嫌がらせを受けやすいという結果が出ている。(女性の政治参画への障壁等に関する調査研究報告書 2021年3月)

ただでさえ、女性議員の数が少ないだけではなく、議員になった、あるいは議員になる過程で女性の方が圧倒的に不利を強いられる。この理不尽な状況は、程度の差こそあれ、世界の多くの国で共通しているのではないだろうか。この状況が変わらない限り、女性が政治への道に進んでも、マッケナ氏のように嫌気が指し辞めていく女性は絶えないだろう。

気候変動に対しても、ジェンダーに対しても、真剣さが足りないと思うのは私だけではないはずだ。CBCのインタビューでマッケナ氏は、COP26について何かひとつ上げるとするならばと聞かれ、将来世代に責任のある私たちは、声をあげ続けなければならない。会議場で終わるのではなく、会議の成果を持ち帰って行動し続けなければならないと語っている。彼女は言う。「We don’t have time」それが将来世代に責任のある私たちの仕事であると。

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