ローマ・カトリック教会のフランシス教皇、カナダ先住民への大規模虐待を謝罪
文 サンダース宮松敬子
歴史的面会
3月末から4月1日に掛けて、カナダで「Indigenous people(原住民或いは先住民‐ここでは先住民で統一する)」と呼ばれる代表たちの一行が、カトリック教会の総本山であるローマのバチカンを訪れフランシス教皇に面会した。
当初は昨年12月に訪問する予定であったが、オミクロン異変株の蔓延が深刻な問題になり計画の延期を余儀なくされた。だが3月に入りコロナの脅威が多少下火になったのを受けて実行に移されたのである。
訪問した彼らは大雑把に分けて三つのグループに分かれており、「First Nation(先住民)」「Metis(先住民と他民族との混血)」「Inuit(北方に住むイヌイット族)」であった。
一堂に会したデリゲーションの一行
文化的ジェノサイド
カナダでは1800年代から始まった連邦政府の同化政策によって、先住民たちを欧州から持ち込んだ生活基盤に当てはめようと、3歳くらいの幼児を含む15万人とも言われる子供たちを親元から引き離し、Residencial School(寄宿学校)に送りこんだ。
寄宿校の一つ
その運営を主に任されたのがカトリック教会で、全体の60%にも上ったと言われている。だが教育を担当する筈の聖職者たちは、子供たちにウジの入った食事を与えたり、容赦ない体罰を加えたり、また神父による性的虐待の数々も行われたのである。加えて英語を話すことを強制し、先住民たちの言語や民族的慣習を奪うなど事実上の「文化的ジェノサイド」であったと、後になって次々と出された調査報告書で明るみに出た。
期待以上の成果?
その事実を、先住民たちはフランシス教皇に面会し自ら報告すると共に、教皇の口から謝罪の言葉を聞くことがこの訪問の最大にして最重要な目的であった。
だが結果的にはそれ以上の成果があったようだ。教皇は三つのグループの人々と別々に面会し、会見内容の詳細は公開されていないものの、彼らの言い分に耳を傾けたと言う。
謝罪の言葉を述べるフランシス教皇
そして4月1日にはデリゲーション全員を前に、過去に起こった事実に対し「嘆かわしく恥かしさを覚える」とし「I ask for God’s forgiveness and I want to say to you with all my heart: I am very sorry.(神に許しを乞い、心の底から“申し訳なかった”と言わせて頂きます」とイタリア語で謝罪した。
全国先住民の会の元代表だったPhil Fontaine氏は、2014年にフランシス教皇の前任者に面会した時と比べ、今回の会見は雲泥の差があると言う。
Phil Fontaine氏
何がバチカンの態度に大きな変化をもたらしたのか?その最大の理由としては、去年の春BC州本土のKamloops市にある元寄学校の近くから、墓標のない215もの子供の遺骨が見つかったことが挙げられる。
十字架に子供の服
世界に流されたこのニュースのその後も、現在に至るまで同様の墓地が幾つか掘り起こされており、最終的にどのような数字になるかの予測は不可能と言われている。
今回教皇に面会した代表者たちの多くは、この歴史的会見を「大きな進歩」と位置付けている。だがこの成り行きをカナダの地元で見守っていた人たちの中からは「たったそれだけ?」と言った反応もある。
自身や身近にいる者たちが寄宿校のサバイバーであったり、その過去の体験が後の人生に大きく影を落としている人々に取っては、教皇からの謝罪があったとはいえ、それだけでは十分とは思えないのであろう。
事実今でも電話のホットラインが設けられており、24時間いつでも相談にのって貰うことが出来るサービスが設立されている。
今後の課題
もう一つ彼らが切望する大きな課題は、今夏教皇がカナダを訪問しKamloops墓地へ出向くことを実現させることである。
一方イヌイットの人々の心の中にくすぶる問題は、1960~93年迄寄宿舎に赴任し、今はフランスで退任生活を送っているJohannes Rivoire神父の、数人の女性に対する性的虐待の公訴事実の陳述を、カナダで執り行う様に司法に働きかけることである。
更には、今回バチカン訪問で訪れた博物館に置かれている、先住民たちから略奪したとみられる数多くの民族的価値のある品々の返還。
また一度は約束したものの、うやむやになっているカトリック教会から先住民に支払われる筈の賠償金の問題も再度俎上に乗せる必要がある。
残されている数多くの問題が何時解決するかの予測は大変に難しい。