これからの大学の役割

前回の記事でケートリン・グリフィス氏が大学進学に関し「Gap Year」という選択について書かれたことに続いて、私もカナダの大学について書いてみたい。

私はトロント市内にあるヨーク大学の職員として、学生のサポートに携わっている。私の担当は、新入学生のオリエンテーション、学生クラブ・団体、学内の寮生のサポートなどなのだが、仕事上、大学内の他の部署と連携する機会が多い。

今日の大学は、第一に高等教育を提供する場であることは変わらないが、学生が学ぶのに適切な環境を作るために、実際の学部教育に加え、様々なサポートが提供されている。例えば、在学中のインターンシップや卒業後の就職を支援する部署、障がいのある学生が適切に学べる環境を支援するアクセシビリティサービス、また学生のメンタルヘルスをサポートするカウンセリングセンター、また人権問題、性暴力に関して教育し、被害者をサポートする部署などがある。大学によって多少の違いはあるが、このようなサービスはカナダの大学では一般的なようである。

トロント市内にあるヨーク大学のグレンドンキャンパス

このようなサポートの必要性が認識されてきたのは、大学がより多様なバックグラウンドを持つ学生に門戸を開いてきたこととも関係しているようである。例えばヨーク大学では、大学の戦略的な指針となるアカデミックプランに、歴史的に排除されてきた多様な人材を積極的に受け入れ、卒業までに必要なサポートを提供することを優先課題の一つとしている。

これは、歴史的に高等教育というものが、限られたエリート養成のために作られてきたために、皆が平等に学べる場とするには、単に多くの人の入学を認めるだけでなく、制度自体を変えていかなければいけないという理解に基づいている。

例えば、両親のどちらかが大学教育を受けた学生に比べ、家族の中で初めて大学に進学する学生は、大学の複雑な制度に不慣れだったり、経済的な事情などから、大学で成功するのはより難しいことが多い。また、これはヨーク大学に関するものではないが、人種別に見ると、黒人の学生はその他の学生に比べて、卒業率が低いというデータもある。

また、カナダの先住民を例にとってみると、カナダ人口一般と比べて大学進学率が低い。先住民の研究にしても、歴史的には白人の入植者によって行われたものが多く、先住民のコミュニティが参加した、先住民の知識を反映する研究の重要性というのは、最近まで認識されてこなかった。そのために、先住民をルーツに持つ学生にとっては、大学に進学しても、講義や授業の中で差別的な内容があったり、先住民の文化、歴史に対する大学側の無理解から、大学は必ずしも安全な学びの場とはならない。その反省から、大学は先住民学生サービスセンター(CISS)を設け、先住民をルーツにもつ学生のためのコミュニティを支え、文化的に適した催しを行うと共に、先住民にルーツを持つ教授の数を増やす方針を打ち出している。

大学はこれからの社会を作り上げる人材を育てる重要な場の一つである。意図的に、または慣習的に排除されてきた多様な人材が平等に成功できる社会となるには、大学に期待される役割は多い。色々な課題はあるものの、今後の大学の成長に、職員の一人として関わり続けていきたい。

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