世界的に増えている「巣立たぬ若者」
文・鈴木典子
4月の記事で、カナダでは高校を卒業した後Gap Year制度を使ってすぐに大学などに進まないことを選ぶ若者と親が増えているという話があった。中学生からキャリア教育があり、大学進学が自分がやりたいこと、自分の仕事も見据えた人生設計の道筋であるカナダでも、若者が自分の行く先を決めるのが難しくなっているのだろうか、と思った。
その後、5月29日の日経新聞の「Inside Out~いまを解き明かす」という特集で、「米英で若者の3分の1が親と同居するようになった」という記事を読んだ(注1)。
この記事でも言われている通り、成人したら親元を離れ自立した生活を営む、というのが米英の慣習だった。それが、2021年頃の各国調査によると(注2)、18~34歳の米国の若者で親と暮らす人の割合は1960年の23%が2021年には33%となっている。特に18~29歳の場合52%が親元で暮らしているという。日本は国勢調査で18~34歳の47%が親と同居と言うから、日本よりも割合が多いことになる。残念ながらカナダの数字が書かれていないが、おそらく似たような数字になっているのだろう。
私がトロントにいた2007~2015年頃は、高校を卒業すると実家から通える場合でも多くの若者が大学の寮に入り、少なくとも大学卒業後は家を出て一人でまたは友人と暮らすのが一般的だった。カナダを離れる頃に新聞記事で、実家を出ない子供が増えたことで子供の生活費の負担が親世代の経済を圧迫している、という話を読み、「成人したら自立するのが正しい大人の在り方」という規範が、「経済的である」という現実に押されているのだと思った記憶がある。
「カナダ、親と同居」で検索して出てきたのが2008年の論文で(注3)、既にその時期から親世代に比べて子供の自立が遅くなり、一旦家を出た若者が実家に戻る「ブーメランキッズ」現象も増えているとある。その原因は、早く結婚すると生活が不安定になること、高等教育の費用とローン返済などの経済的負担、親との同居が「不名誉」ではなくなってきていること、経済力以上の生活水準を求める傾向があることなどが挙げられている。

これらの原因に加えて近年顕著なのが、家賃の高騰らしい。先日カナダの友人と話をしていて、コロナ後の家賃高騰は驚異的で、「収入の低い若者世代にとっては自立が非常に難しくなっている」と聞いた。子どもが同居していれば、大学生や若者に安く提供されていた「貸し間」も出ず、日本のように狭いワンルームなどの選択肢もないため、貸し手市場なのだろう。これでは早く自立するのが理想であっても現実的に親と同居せざるを得ない。
興味深いのが親と同居の割合と出生率に逆相関関係があることだ。早いうちに自立する社会ではカップル形成も早く出生率が高くなる。日本は2020年の国勢調査によると、未婚者の場合40歳代の6割強、50代でも5割弱が親と同居だと言うのだから少子化とパラサイト・シングル現象を関連付けるのも当然だろう。同居する高齢の子が更に高齢の親を介護するという「老々介護」にもつながるかもしれない。
結婚したら夫の家に入るのが一般的だった日本社会と、成人したら自立して自分の家庭を築くのが前提のカナダ社会では、根底の思想が異なる。私のトロントの友人知人には、親も子も自立しつつ親しく交流する家族が多かった。子どもが早く自立して自分の時間が増えることで親世代も自分の人生を自分の家で楽しみ、年を取ってからも子どもに依存せず老人ホームに入って悠々自適だったりヘルパーさんの助けを借りて自宅で過ごしたりする人が多い。親子の交流も、盆暮れに実家を訪れることが義務的になり負担に感じるようになっている日本に比べ、時間があるときに気軽に訪れたり電話をかけたりして気遣うトロントの親子の在り方の方が自然体だと思う。おそらくカナダでの親の家での同居は経済的に自立ができるようになるまでの「やむを得ない」選択肢なのではないだろうか。雇用不安や家賃・生活費の高騰で、カナダの家族の在り方も変わらざるを得ないのかもしれない。
注2:米欧は2021年、日本は2020年の各国統計で18~34歳、中国韓国は2018年の調査で16~34歳。親との同居率が低いのは北欧で20%未満、南欧・東欧は65%以上。アジアは韓国が70%。
注3:カナダにおける人口動態・家族・労働の変化に関する行動力としての知識の形成について(スーザン・A・マックダニエル) 1.カナダの高齢化と人口の多様化 ⑵子どもの自立 (海外社会保障研究Summer 2008 No.163 P57-58)