日本の高校野球に広がるリーグ戦形式
文・鈴木典子
複数が対戦する場合の試合形式に、リーグ戦とトーナメント戦がある。リーグ戦は、複数者がグループを作って少なくとも1回はグループ内の相手と対戦してグループ内の最優秀者を決める方法で(星取表下記図1参照)、トーナメント制は2者ずつが戦い、各試合の勝者同士2者ずつが戦っていって、最後に一度も負けなかった者を最優秀者とする方法だ(トーナメント表下記図参照)。
リーグ戦にはワールドカップやオリンピックのように、リーグ戦を予選大会としてリーグ戦の各グループの勝者同士で決勝トーナメントを行う場合があり、トーナメント制にも「敗者復活戦」として一度負けたチーム同士が対戦し、最終的に一度だけ負けたチームと一度も負けていないチームが決勝戦を行う場合もある。また、リーグ戦の場合は勝率・得失点差・勝ち点などの順位判定基準の設定により、引き分けも可能だし、同じ勝率でも順位をつける方法があるが、トーナメント制の場合は必ず各試合で勝敗を明らかにする必要がある。


想像するに、戦争などの実際の戦いでは負ける=死ねば終わりなので、何をやっても生き残らなければ意味が無いというところから、トーナメント制があるのだろう。一方リーグ戦の始まりは「一般的に19世紀末のアメリカの野球と言われている(注1)」らしく、比較的新しい形式のようだ。
プロスポーツやチェス、将棋などの競技会ではリーグ戦が多い。プロの世界では一度負けたら終わりでは仕事にならないので、リーグ戦形式を採用しているのだろう。
試合を数多く経験し、勝ったり負けたりを繰り返しながら強くなる、または最終的に最優秀者になる、というリーグ戦形式には、試合を通じて強くなるという育成や教育の観点が強いと思われるのに、日本の青少年のスポーツの大会にはトーナメント制が多い。特に学校の部活動では、高校総体(高等学校総合体育大会)や全国高校野球選手権大会(通称の「甲子園」は他の競技やイベントでも多用されている)などのトーナメント制の全国大会は長い歴史を持っている。
上に書いたとおり、トーナメントの場合、最終的に一度も「負けていない」チームが優勝するので、「負けたら終わり」「一発勝負」から「勝利至上主義=勝つためには何でもする」につながりやすい。「勝つためには強い選手だけを出場させる」は理解され得るが、「相手を負けさせるためには何でもする」という発想に容易につながる。実際に、相手にけがをさせる、評判を落とすなど、過去の事件は枚挙にいとまがなく、2018年に拙稿で取り上げた大学のアメフト部の事件などはその最たるものだろう(注2)。
今年になって、高校の野球部が2015年からリーグ戦を行っていることが報道される機会が増えた。「リーガ・アグレシーバ」という活動である(注3)。話題に上がるようになったきっかけは、このリーグに参加している慶応高校野球部が甲子園大会で優勝したことだろう。
このリーグは以下の「リーガ・メソッド」に基づき、ルールは試合後の「アフターマッチファンクション(ラグビーで行われている交流会で、対戦した選手が感想を交換する場)」に加え、投球数や変化球の制限、木製または低反発バットの使用や再出場制度など、投手、打者両方について様々なルールを定めており、スポーツマンシップ講習会を含め、選手も指導者も学ぶ場を用意している。
リーガ・メソッド:
*リーグ戦形式で試合を行う
*選手の未来に役立つルールを定める(投球数制限、登板間隔、変化球制限、木製バットもしくは低反発金属バットの使用)
*スポーツマンシップを共に学び実践する(相手チームの選手をリスペクト(尊敬)し合い、お互いにいいものを作り上げる)
*指導者が学び続け指導力向上を目指す
トロントの部活動を含む青少年のスポーツがリーグ戦で行われているのを経験し、リーグ戦が広まれば青少年が試合をする機会も増え、勝利至上主義にとらわれずに勝ったり負けたりする経験から成長できるのではないかと常々思ってきた。年間に複数の公式戦を運営するには様々な課題はあるが、まさに私の思いを体現する仕組みが進んでいることが喜ばしく、この革新的な試みに参加する高校野球部が増えることを心から願っている。
注1:明大スポーツ新聞部「リーグ戦の魅力とは!?春季リーグ戦 各部の結果を集計しました!」 https://meisupo.net/news/detail/3880
注2:https://thegroupofeight.com/2018/06/03/football/
注3:甲子園で優勝した慶應義塾も参加する「高校野球リーグ戦」が、ここにきて「全国で拡大」しているワケ:YahooNews2023/10/1
https://news.yahoo.co.jp/articles/7b8520f430f4146ce614f4c6209e834b22a4abcd?page=1
現代ビジネス>スポーツ2023/10/1:https://gendai.media/articles/-/116995
注4:WebSportiva2023/9/20:慶應との練習試合で立命館宇治は何を学んだのか 躍進の舞台裏にある 「エンジョイ・ベースボール」と「リーガ・アグレシーバ」
https://sportiva.shueisha.co.jp/clm/baseball/hs_other/2023/09/20/post_80/
・アフターマッチファンクション
・球数制限(1日100球まで)
・変化球の制限(カーブとチェンジアップのみで投球全体の25%以内)
・登板間隔ルール(MLBのピッチスマートを参考に導入)
・木製or低反発バットの使用
・DH&再出場制度
・1日2試合=18イニングのうち、1人が出場できるのは12イニングまで
・送りバントの制限(1試合2回まで)
・試合終盤には無死一、二塁や無死満塁など状況設定してイニングを開始
・スポーツマンシップ講習
(※上記はあくまで目安で、細かいルールは各都道府県のリーグごとに規定)
Torch 2023/3/27未来を担う子どもたちを育てる、高校野球リーグ「リーガ・アグレシーバ」の試み https://torch-sports.jp/article/liga-agresiva-sakai-big-boys