2024年のアカデミー科学技術賞: アカデミー映画博物館にて

文・ ケートリン・グリフィス 

3月10日にロサンゼルス・ハリウッドで行われたアカデミー賞(通称オスカー賞)では見事「ゴジラ-1.0」が日本映画として初めて視覚効果賞を受賞しただけでなく、宮崎駿の監督作「君たちはどう生きるか」も長編アニメーション賞を受賞した。

この授賞式を見ていた方は、チョロっと流れたアカデミー科学技術賞の説明と画像に気が付いただろうか?この科学技術賞はアカデミー賞の部門の一つであるが、役者や監督が参列するアカデミー賞より3週間ほど前に授賞式が行われる。別の日に行われる理由は、科学技術賞がその年特定の映画が対象ではないこと、それに加え毎年受賞する数や分野に決まりはないこと、また授賞式には事前に報告を受けた受賞確定者とそのゲストそしてアカデミー賞関係者たちだけである。3月10日のアカデミー賞では受賞するかどうかは当日のその場になってからしか分からない。ここが大きな違いである。 

科学技術賞は映画製作をより優れたものへと導いた技術を公認し讃える賞であるため、一つの映画ではなく、長年映画業界と関わって蓄積と貢献が認められた団体や個人へ授与される。そのため、科学技術賞では全員がすでに受賞が決定しているので会場内は「長年の功績が認められて嬉しい」といった雰囲気で満ち溢れている。そして光栄にも今年、夫が二度目となるアカデミー科学技術賞を受賞した。2018年に初めて受賞した時の報告をこのサイトでさせていただいたが(注1)、その時はホテルが会場だったが、今回はアカデミー映画博物館シアターで行われたので違った体験となり、その感想を改めて述べたいと思う。 

アカデミー映画博物館がハリウッド映画の本拠地ロサンゼルスで開館したのは2022年。以後、科学技術賞授賞式はここで開催されている。ちなみにこのアカデミー映画博物館はハリウッド映画ファンにとっては見逃せない場所でもある。入館チケットとは別料金だが、実際にオスカー像を手にもって「スター気分」を味わいながら写真撮影ができるセクションもあったりするのだ。 

さて、授賞式は博物館内の朱色で統一された豪華なシアターで行われ、終了後は博物館ロビーに隣接したレストラン・カフェスペースでビュッフェ形式の食事が提供された。今年の受賞者は2018年に比べ少なかったものの幅広い分野の技術者たちがリストに名を連ねた。例えば夫が受賞したコンピューター・ソフト技術のほか、レーザー技術、ファッション作成ソフト、撮影に使われる車などが高い所からでも安全にタイミング通り落下できるように工夫されたワイヤー切り技術、役者が運転をしているよう見えるが実はその車の上にカメラとスタントマンが乗って操作をするシステムを作ったチーム、などである。 

受賞式はYouTubeでアップされているので誰でも見ることは可能だが(注2)、会場で上映されていた各賞の紹介を始め、要である「なぜこの技術が賞を受け取るだけの価値があるのか」の部分のビデオがコピーライトのトラブルのため省かれているのが残念だ。映画作成の際の貢献がとてもわかりやすく明確に伝わり、映画製作にどれだけ色々な分野の技術が必要なのか、ということに改めて感服した。先ほど紹介した車の上でスタントマンが実際に運転をしている技術は、1994年の映画「スピード」で初めて使われてからまさに30年以上の実績を誇り、今なお進化し続けている、ということが受賞の理由であると説明されていた。 

なお、受賞者の中には日本人もいたが、ほぼ全員が白人男性であった。そして女性受賞者は一人もいなかった。特定技術分野はまだまだ男性が大半を占めているということなのであろうか? 

当日の式次第を簡単に振り返ると、まずは身分証明とチケットを見せたのち博物館のロビーへ入り、受賞者は花の胸元ピンを貰う。そしてそのままレッドカーペットに導かれポーズをとりながらの撮影が行われ、その後複数の報道陣からの質問等に答える(この時、私のような同伴者は別の場所で待機)。ゆっくりとシアター会場へ移動して指名された席へ座り、正式にイベントが始まるまで待つ。

授賞式は2時間位だっただろうか。その後は食事のためロビーへもどった。すでに記したようにビュッフェ形式だったので座ってゆっくり食べるのではなく、ガラスを片手に立ち回り社交タイムを楽しむ、という設定であったように思う。報道陣はすでに引き払っていたが、レッドカーペットでプロのカメラマンが写真を撮ってくれるサービスを提供していたので、楽しそうにオスカーのロゴの前で同伴者と写真を撮る人たちも多かった。 

正直食事は前回のほうが満足感があり美味しかった、と言えること自体が贅沢なことであると認識している。科学技術賞が最高に素敵なのはやはり参加者全員が喜びに満ちていて、笑みが絶えない幸せな空間であること。それを二度も体験できたことに感謝したい。 

注1)https://thegroupofeight.com/2018/05/16/sci-tech-academy/

注2)https://www.youtube.com/watch?v=nn-BGMRsmVQ&t=1775s