選択できる自由の大切さ

文・空野優子

最近のG8の記事の中で、カナダとフランスでの避妊、中絶の選択肢の拡大について斎藤文栄氏が書かれたのを読んで、自分の経験を振り返ってみた。

以前にも書いたが、私は19歳の時にアメリカに大学留学し、その後トロントの大学院に進学して以来カナダに住んでいる。日本で生まれ育ったわけだが、大人の人生のほぼ全てを海外で過ごしたことになる。

アメリカに留学した2002年当時、私には女性のリプロダクティブヘルスについての知識はほぼなかった。大学の寮に無料・匿名でコンドームが配達される制度があることにおどろいたり、低用量ピルについて知ったのも在学中のことだ。学生仲間から子宮頸がんの検診を受けておいた方がということもその時に知った。

街のクリニックに診察に行った時に会った女性医師は、子宮頸がんは若い年齢でも発症しやすいこと、早期に発見することで不妊などの影響を少なくすることができること、そのために3年に一度検診を受けることが大切なことを丁寧に説明してくれた。

また問診の中で、低用量ピルについて触れ、避妊に効果的なだけでなく、生理不順にも効果があるとの情報を得た。一年留学したフランスでも、その後やってきたカナダでも医師に同じような説明を受けた覚えがある。

私の推測だが、女子大生を診療する医師は、女性にとって、また大学生という人生の過程からしても、正しい避妊がいかに重要なのかを理解して、このような情報を伝えているのだろう。ちなみに学生保険が適応されたのか、ピルは月に5ドルとか、比較的安価だった。診療費は払った記憶がないので、留学生という身分にもかかわらず、これも無料か、無料に近い値段だったのだろう。

緊急避妊薬についても、学生同士の話題で時折出ていて、20年前の当時でも、何かあった時には薬局で手に入る、という知識が広がっていた。ちなみに英語では一般に、緊急避妊薬のことをmorning after pills(次の朝のピル)と呼ぶ。わかりやすく、また抵抗なく呼べるような表現が浸透したのだろうと思う。日本でも使いやすい名前を考えてくれないだろうか。

また、避妊、中絶に限らず、人生の一大事である妊娠、出産についてもカナダでは女性が自分の希望を叶えやすい制度がより整っているように思う。私はカナダで3回出産したのだが、その度に産休、育休を取り、仕事に復帰することができた。理解のある女性が上司だったこともあるが、休職時に職場に迷惑がかかるにもかかわらず、同僚一人嫌な顔することなく、むしろ祝福して送り出してくれた。

仕事に復帰してからは夫と協力して子育てをしているが、子どもの送り迎えや、病気になった時に休みをとることも分担できることで、働きながら子育てを続けることができている。

もちろんカナダ、フランスで全ての女性が平等に選択肢を持っているわけではない。私は大学勤務という比較的恵まれた環境にいるが、周りにも出産を機に仕事を中断せざるを得なかった人はいるし、高額な保育料を考えて仕事復帰を遅らせた人もいる。

私や夫の職場では、男女関わらず子どもの事情で休み、早退をすることがあるのは必要と理解されているが、定年近い年上の同僚と話をすると、彼女たちの時代には夫が子どもの病気で休みを取るなんて考えられなかったそうだ。ジェンダーの役割に関して、女性が(そしておそらく男性も)暮らしやすい社会になるための先代の方々の努力に感謝するのみだ。

女性にとって、避妊、中絶を含め子どもを産むかどうか、産むならいつ産むか、また産んだ後、子育てに専念するか、仕事を続けるか、といった選択は人生を左右する重要事項である。私自身はその時々、最善の選択をしてきたつもりだが、その選択肢があったこと自体が、今考えるととても恵まれていたことだったのだ。

日本でも女性の活躍が叫ばれて久しい。女性が活躍できるようになるには、斎藤氏が述べているように、社会が女性の自由を保障する制度を整えなければならない。このことは自分の経験を振り返ってみて自信を持って言える。