日本の部活動は「ブラック部活」?

文・鈴木典子

2016年8月のNHK番組「クローズアップ現代+」で、中学校の吹奏楽部や野球部での行き過ぎた指導が取り上げられ、「ブラック部活」という言葉が使われるようになった。劣悪な環境の下日本の部活動は「ブラック部活」?で雇用者を働かせる企業を指す「ブラック企業」という言葉に対応するものだ。

この言葉は、生徒だけではなく教師にとっても部活動が心身の大きな負担になっていることから、教育現場や委員会などで頻繁に取り上げられ、2017年12月28日には、大学の研究者や中高の現役教諭などによる「日本部活動学会」が設立された。

日本の中高の部活動には、野球、陸上などの運動部と、吹奏楽、書道、かるたなどの文化部がある。学習指導要領では「生徒の自主的、自発的な参加による」ものであり、教育課程外の活動でありながら学校教育の一環として行われる「部活」は、日本の中高の学校生活において大きな部分であり、野球部をはじめとして、昔から様々な小説や漫画で題材にされている。また、生徒全員を強制入部させる必要はない活動にも関わらず、部活に入らない生徒のことを「帰宅部」と呼ぶことからわかるように、生徒全員を入部させるようにしている学校は多い。また、活動時間も長く、朝練(始業時間前)、放課後、週末は終日という活動も多い(注1)。

sportsしかし、では厳しい練習や指導を全ての生徒や保護者が嫌っているかというと、そうではなく、おかげで好成績を残せたとか、大きな大会に挑戦させてもらえたとか、保護者も、子供が暇にして悪いことをしなくてすんでありがたいという声や、練習が荒天で休みになったらなんでやらないのか、たるんでいるとねじ込む人もいるそうだ。生徒、保護者の間での温度差は大きいのだ。

一方で、ほかの国に比べて、日本の教職員の仕事における部活動のウェイトの大きさがクローズアップされてきた(注2)。通常、部活動は教員が顧問とならなければならず、教員の勤務時間外の部活動の指導は、校長が命じる時間外勤務ではなく「自発的」にやっているとみなされるが、何かあれば責任が問われる。学外指導者を招く余裕がない学校が多いため、顧問は活動の指導もしなければならないことが多いが、半数以上の教員が自分が経験したことのないスポーツの顧問をしているというデータもある(2014年日本体育協会発表)。無理やりやらされている教職員がいる一方で、自分がやってきたスポーツを出身校で生徒に指導したい、と願ってやっている教職員もいて、そのような顧問は私生活も全て部活動につぎ込んだり、生徒を下宿させたりすることもある。顧問の間での温度差も、大きい。

カナダの学校生活を思うと、日本に比べてずいぶんゆるく、のんびりした部活動を楽しめたと思う。自分の子供の通っていた公立学校の経験でしかないが、カナダでももちろん顧問がいて、一定数の部員が集まらないと活動はできない。去年までは州の大会で連覇していたチアリーディング部が、顧問が異動したから今年からはなし、などという事態は普通にあった。部活動が教員にとって時間外だったのはもちろんで、教員のストライキがあると課外活動は全て中止だったし、大会の引率で応援しながら宿題の丸付けをしている先生も何人もいた。顧問は複数いるのが普通で、一人の教員が複数の部の顧問をやるのも当然で、大会などがかち合ったら、分担し合って参加していた記憶がある。

生徒にも教員にも負担が比較的軽い理由は、何よりも部活動が前期・後期または3期にわかれていることだろう。秋は野球、冬はアイスホッケー、春はバドミントン、などと複数のクラブに所属したり、バレーボールとドラマとを両立したりということもできるようになっていた。また、息子の学校では高校は4年間だったため、クラブによって年齢や経験で実力差がでる場合は、ジュニアとシニアに分けて活動していた。教育委員会のまとまりで大会が運営されており、地区、市、県、州と勝ちあがれば、全校生と保護者に応援が呼びかけられ、結果が学校で発表され、垂れ幕が出されたりするのは、日本と変わらない。でも、シーズンが終われば、また別の部活で楽しんだり活躍したりで、あっさりしたものだ。顧問も、予定されている大会を目標に選抜を行い、週数回の練習を経て大会に参加する、という具合だ。

楽しむ部活が成立していたもう一つの理由は、学校外でスポーツでも文化でも様々な活動ができるため、学校でのクラブ活動はあくまで楽しみのため、または、学校外の活動を補ったり、別の部分を伸ばしたりするために使うことができたことだろう。

orcそもそも日本で部活動が盛んな理由は、いろいろ考えられる。「放課後時間があると非行に走る」と言われて、学校に生徒たちを縛り付けたことが始まりだとか、内申書や推薦入学の時に部活動をしていると有利だとか、大会や試合での成果が学校の評価となり、生徒を集められるからだとか。例えば甲子園常勝の野球名門高校では、野球部が3部まであり、1部の優秀な選手は授業への出席や授業料を一部免除され、寮で野球漬けの生活をするという、ほとんどセミプロのような生活が保障されているところもある。一方で、何もやらないわけに行かないからとりあえず野球部とサッカー部だけがあり、全生徒がどちらかに所属しなければならない、などという学校もあるようだ。

日本の生徒は、一つのクラブしか選べず、年功序列で上級生が中心になって活動することが多いため、転部することはほとんど考えられない。大会が学校単位での参加によるものが多い活動では、学校外での活動は部活動の練習を補うための特別練習となるだろう。幼少時からお稽古事として学外活動が盛んで、施設・設備上の制約等からクラブ単位での大会が多い水泳、体操、サッカーなどは、例外かもしれない。

いつもながら野球が例で恐縮だが、部活は、甲子園に出場しプロ野球にドラフトされる生徒や、チームのために優勝して監督を胴上げしてあげたいという選手が代表するような、華やかで教育的な面だけではない。「自発的」という仮面の下で強制され、いじめや体罰などに苦しむ生徒、なじみのない部活の指導のために朝から夜まで、週末の休みも家庭生活も返上しなければならない教師などの声が取り上げられるのは、良いことだろう。だが、部活を楽しみにする生徒や教員、保護者がいて、3年間部活動をやり遂げることがすばらしいという社会認識がある中で、新しく発足した学会がどのような提案をするのか、期待と不安を持って見守ろうと思っている。

(注1)2016年スポーツ庁の調査結果によると、中学生の学校での活動時間は正課(いわゆる授業)が6割、課外活動が4割、生徒によっては授業と課外活動が半々になるという。考え方を変えると、授業に加えて、それと同じくらいの時間を課外活動に費やしているということになる。また、週1日の休養日を設けている学校が54.2%、週2日は14.1%、定めていない学校が22.4%、週末に休養日を設けていない学校は42.6%。

(注2)2014年OECD国際教員指導環境調査によると、日本の教員の1週間の勤務時間は調査参加国のうち最長の53.9時間(参加国平均38.3時間)で、授業の指導に使った時間は参加国平均と同程度だが、課外活動の指導時間は日本7.7時間(参加国平均2.1時間)、2016年連合総研による「日本における教職員の働き方・労働時間の実態に関する研究委員会報告書」によると、中学校教員の1日の平均在校時間は12時間10分、週60時間以上働いている教員の割合が87%で、月に換算すると残業が80時間以上となり、9割近い教員が過労死ラインを超えて働いていることになる。

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