国連から見たカナダの女性差別とは Part2

文・斎藤文栄 

日本でも昨年(2024年)の秋以降、報道が多かった国連の女性差別撤廃条約だが、実は同じ時期にカナダも同条約の審査の対象となっていた。

日本は、ちょうど衆議院選挙の直前だったこともあり、選挙の争点のひとつともなった選択的夫婦別姓について女性差別撤廃委員会がどのような勧告を出すのか、これを機に日本でジェンダーが進むのかなどに焦点が集まり、メディアからの注目度が高まった。それに加え、委員会が出した勧告が皇室典範について触れたことで、外務省が、日本政府が国連人権高等弁務官事務所に拠出している資金を女性差別撤廃委員会には使わないように伝えたと発表し、金でいうことを聞かせようとするのかと日本政府の姿勢に非難が集中し、さらに注目が集まることになった。

これに対しカナダでは、女性差別委員会からカナダ政府へ勧告は出たが、先住民族の関係でCBC(カナダ国営放送)がわずかに伝えただけで、ほとんど報道はされなかった。審査のためにジュネーブに飛んだトロント大学の国際人権プログラムのジェームズさんは、「どのような形であれ、日本のようにこれだけ国際人権条約が話題になることが羨ましい」と呟いていた。ただし、彼も最近、日本の外務省の出した見解を聞けば、羨ましいとは言えなくなるのではないだろうか・・・。

今回、私は約20年ぶりに女性差別撤廃委員会の審査に参加した。審査が行われたのはスイスのジュネーブ。

カナダと日本は、同じ週の水曜日と木曜日という、1日違いの審査だったため、委員会メンバーに向けて行われるNGOからのインプットが、その週の月曜日に同じ時間帯で行われた。そのため、私は、幸運にも会場でカナダのNGOのスピーチを聞くことができた。カナダのNGOはいくつかの団体が連帯してひとつのスピーチを作り上げ、そのスピーチを3人が分け合って発言していた。感動したのは、カナダのスピーチが始まったとたん、カナダから来たNGOの人たちがその場で立ち上がり、スピーチへの支持を表明したことだ。国連では、横断幕を持ったデモンストレーションなどは禁止されているが、こうした「ただ立つだけ」の行動まで規制されているわけではない。日本のNGOの順番はちょうどカナダの後。よし、私たちもカナダのように立ってスピーカーを応援しようと、急遽会場で呼びかけ、デモンストレーションを行った。国連ウェブTVではこの辺りがよく映っていないのが残念であるが、ぜひカナダや日本のNGOの発言をご覧になっていただきたい。

国連女性差別撤廃委員会の前で発言するカナダNGOの代表。国連ウェブTVより

私は2016年にも、カナダの女性差別撤廃条約についての記事を書いている。それ以来、今回の審査は、8年ぶりとなる。

今回のカナダへの勧告の中で衝撃的だったのは、先住民女性が強制不妊手術を受けさせられてきたという事実である。歴史的に12,000人以上が対象となり、一番直近で2019年にも不妊手術のケースがあるという。先住民の強制不妊については、すでに2021年にカナダ上院の人権に関する常任委員会が、調査を行なった結果をレポートにまとめ、政府に対策を勧告している。女性差別撤廃委員会も、この議会報告に触れつつ、カナダ議会に提出された強制的な不妊手術を刑罰とする法案の承認などカナダ政府の取り組みを促す勧告を出している。(*2025年2月現在、法案は上院で可決され、下院に付託されている)

先住民女性については、この他、女性受刑者に先住民が多いことや(人口4%に対し、受刑者の40%を占めている)、先住民コミュニティに多い石油・ガス・鉱物資源等の探査・開発・採取に係る産業(extractive industries)に起因するジェンダーに基づく暴力への対策、先住民の権利を規定するインディアン法が(改正されているものの依然)内包する女性差別に対する取り組みなどが勧告された。

ところで、カナダに対する勧告を見ると、女性差別の構造は、国は違えど、本質的には変わらないことを改めて実感する。

先住民の強制不妊の問題は、2024年に最高裁で違憲判決が出た旧優生保護法下で強制不妊された障害者の強制不妊と同じ構造であり、インディアン法が抱える、コミュニティ外部の人と結婚する女性が資格を失うという女性差別(男性は失わない)は、父親が日本国籍で母親が外国人だった場合には日本国籍が付与されるのに、逆転した場合には認められないという旧国籍法と共通する。日本は女性差別撤廃条約を批准する際(1985年)にこの旧国籍法を改めたが、このような差別は、コミュニティの入会権という形で最近まで現存していた。*(1)(2)

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各国の女性差別の課題を精査し、勧告を出す女性差別撤廃委員会の仕事には改めて敬意を表す。中には耳の痛いこともあるだろう。しかし、それは私たちが避けては通れない、解決しなければいけない課題であることは間違いない。

(1)最高裁判例 平成18年(2006年)3月18日 https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=32834 入会部落の慣習に基づく入会集団の会則のうち入会権者の資格を原則として男子孫に限定し同入会部落の部落民以外の男性と婚姻した女子孫は離婚して旧姓に復しない限り入会権者の資格を認めないとする部分が民法90条の規定により無効とされた事例

(2)”女性が制限されていた杣山の入会権を見直し 「世帯主」から「家族代表」に  沖縄・金武区” 琉球新報 2022年6月14日 https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1532840.html