曾祖父の日本への旅:パート2

文・ケートリン・グリフィス 

二年前に突然届いたエラおばあさんのスクラッブ・ブックから矢島楫子を知り、そこから昭和初期の女性運動や当時の日本滞在の宣教師や観光客などについて理解を深めるようになった。観光客の中に自分の祖先、曾叔父オースチン・グリフィス もいたことに驚きと感動もあった。今回もオースチン・グリフィスの自伝から彼の二回目の日本訪問を紹介したい。

夫婦で東アジア旅行をしたとあるのは1929年で一回目の訪問から8年が過ぎている。しかし、当時を上手く思い出せなかったのかこの二回目の旅行は大雑把にしか書き残していない。経済的不安定な時期であるにも関わらず夫婦で旅行に出かけた経緯を示し、マニラ、香港、上海を巡り目的地であった日本へ着いたとある。帰国が1930年初旬とあるので新年を跨いだ時期に旅行したようだ。

彼らが観光客としてどの様にこのアジア旅行と日本を体験したのか気になる私にとっては物足りないチャプターであったが、それでも目を引く箇所があった。それが以下である:

「新渡戸稲造博士宅に招待され日曜の晩御飯をご馳走になった。彼は国際労働局の日本代表としてジェネーブにいた著名人である。彼の妻の家族は由緒あるフィラデルフィア州のクェーカーたちであると紹介された。食事中、彼はグリフィス夫人にアメリカの排日移民法について人々が非常に憤っているとコメントをしていた。」

短い内容だが、新渡戸稲造宅へ招かれ食事をしたとはなんとも言えない驚きがある。新渡戸夫妻はこのように海外からのお客を頻繁に迎えていたのだろうか?オースチン・グリフィスは知名度があったわけでもなく由緒ある家柄の出身でもない。この旅行にローンを組まないと行けなかったくらいなのでそれほど経済的余裕があったわけでもないが、それでも相当の待遇を日本で受けている。知名度のある観光客など更におもてなしがすごかったのではないだろうか。

さて、今回も二人の私服警官の護衛と車が与えられ、行きたい所へどこにでも連れて行ってくれるよう警察署が手配してくれたと述べている。前回同様、警察学校、監獄、裁判所を訪れたとある。これらへの場所にエラおばあさんも同行したのかはわからない。別行動もとっていたのなら彼女はどこを訪ねたのだろうか?それこそ彼女がシアトルでも力を入れていたPTA活動や婦人会関連の場ではないだろうか?エラおばあさんが禁酒主義であったかどうかわからないが、オースチンがそうであったので彼女はもしかしたら婦人矯風会へ赴いたかもしれない。また当時横浜に住んでいたタッピング夫妻に会いにいったかもしれない。そのころタッピング夫妻は賀川豊彦の活動に貢献していたので、彼の話で盛り上がったのかもしれない。すべて想像でしかないが彼女がどのように過ごしたか考えるのは楽しい。

夫婦同行であっただろうと想定できるのは新渡戸稲造宅での食事とトマス・バティさんと彼の妹とともに時間を過ごしたと記している所。またシアトル・クラブ(年齢を問わずシアトルに住んだことがあったり留学したりした日本人が会員)が食事会を自分たちのために開いてくれた、と述べている所だけである。内務省衛生局の計らいで庭園、公園などには自由に行けた、と言っているので夫婦で行ったと信じたい。どの庭園や名所に行ったか知りたいが、この自伝を書く頃には名を忘れていたのだろう。日本では東京、神戸、大阪で宿泊したとしか記していない。私も数年過ごした神戸に1930年初旬に曾祖父母が訪れた縁が不思議で神戸のどの辺りを巡ったのだろうかと想像を膨らましている。もしかしたら1870年に開業したオリエンタルホテルに泊まったのではないだろうか?とか、そこから今よりも敷地の広かった生田神社まで歩いたのではないか(もしくは力車でいったかもしれない?)、晩御飯前か後にスズラン灯でライトアップされ賑っていた元町商店街を散策したのではないだろうか?メリケンパークにも行ったのかもしれない。想像だけだが、やはり考えると楽しい。

この旅がエラおばあさんにとって初のアジア旅行であったので、目にした不思議な光景や出会い、ファッション、食べ物などお土産話になったものがたくさんあっただろうが、このオースチン・グリフィスの自伝やエラおばあさんのスクラップ・ブックにはそれを示してくれるヒントはない。残念だけど、それでも、このエラおばあさんのスクラッブ・ブックから得たものは大きい。感謝したい。

(この記事に関連する6記事は以下からご覧になれます)

1 矢嶋楫子(Yajima Kajiko)の「平和メッセージ」との出会い 

2 ジェネヴィーヴ・タッピングとの出会い

3 矢島楫子と守屋東の「平和メッセージ訪問」

4 日系アメリカ・コミュニティーと守屋東の「日本女性の誇り」

5 日本に繋がる不思議な縁 

6 1920年代に日本を訪れた曽叔父母

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